とどのつまりはギトギト熱い園子温印
井上三太原作で1997年〜2005年まで連載された人気コミック「TOKYO TRIBE2」を実写化した『TOKYO TRIBE』。原作が連載されたのはコミック誌ではなく、ストリートファッション誌の草分け的な存在であった「月刊Boon」で、原作はいい意味でも別の意味でもストリート感覚のオシャレなにおいがプンプンしている。
・【元ネタ比較】前編/原作のオシャレ感はどこに!? ストリート感ゼロのラップ・ミュージカル
園子温監督が実写化した本作はセリフの多くを本物のラッパーや役者たちがラップで交わし、“全編ラップ・ミュージカル”と銘打ってはいるが、ストリート感が感じられないのだ。そもそもかくし芸大会レベルの役者と本物のラッパーではラップのスキルが歴然とし過ぎて無駄に気になってしまう。メインキャラクターの海を演じるラッパーのYOUNG DAISがやると、「あ、そうそう、コレがラップだよね!」といちいち関心してしまうのだ。
どうやらラップを含め、ストリートカルチャーは園子温監督には扱えなかった様子。原作には架空の街“トーキョー”のそれぞれの地区“ムサシノクニ”だの“ブクロ”だの“シヴヤ”だのが出てくるのだが、映画版ではロケではなくセットで撮影。原作に通ずる“現実とはちょっと違う異空間”を作り出してくれるのではないかと期待していた。しかし、確かに異空間ではあるのだが、なんなんだろう、東東京な空気がみなぎっているのだ。海たちのいるムサシノクニ=吉祥寺の西東京な空気が一切感じられず、ポップな雰囲気がゼロ。過激なわりには奥深くはないストーリーよりも“ポップでオシャレな雰囲気”こそ「TOKYO TRIBE」になくてはならないものだと思うのだが。
と言っても、映画版はストーリーも原作に忠実ではないどころの騒ぎではないのだからしてムキになることはないかもしれない。原作は海とライバルのメラは元親友で、その関係はよくある友情と恋が絡んでもつれ合っているが、映画版では確執は皆無だ。さらに映画版では最後の最後に2人の間柄に関するオチがあり、通常なら完マークが出ても席を立たないようにと言うところだが、見ても見なくてもどちらでもお好きなようにと言いたくなるオチ。園子温監督は芸人になると一度は宣言したものの取りやめたようだが、取りやめて正解だと思ってしまった。クールな原作をもってしても、やっぱりベタでギトギトとした園子温印の作品にしてしまう“力量”をみると、園子温にとって監督業は天職なのだろう。(文:入江奈々/ライター)
『TOKYO TRIBE』は8月30日より全国公開される。
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