(…前編から続く)逆に言えば、いまや伝記映画にメジャーとかマイナー、あるいはその人を知っている/知らないというのはそれほど関係ないのかなと。前回書いたことと重なるが、いかに鮮烈かつ数奇なエピソードを映画として見せるかが第一で、その人がどんな人生を歩んだかは二の次。だからこそ、デイヴ・ヴァン・ロンクの回顧録をもとにさまざまなエピソードが付け加えられた『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』や、ポピュラー音楽界のアウトサイダーたちのエピソードをパッチワークで重ね合わせた『FRANK』のようなリ・イマジネーション的作品が成立し得るのだろう。
・音楽系の伝記映画が充実した2014年。2015年は?/前編
『FRANK』の主人公=フランクの人間性においてモデルとなっているダニエル・ジョンストンは、まだ存命中のシンガー・ソングライターだが、彼自身のドキュメンタリー映画『悪魔とダニエル・ジョンストン』も2005年に公開されている。そのエピソードについては以前『FRANK』を紹介したコラムをお読みいただきたいのだが、とにかく「現実にこんな人がいるのか」と驚かされることしきりの半生だ。そういった“小説よりも奇なり”的な人物をただ面白がるだけではなく、リスペクトを持って映像化しているところが『FRANK』の素晴らしいところである。『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』もしかり。一般的には弟子とも言えるボブ・ディランにおいしいところを持っていかれた可哀想な人、という見方さえあるデイヴ・ヴァン・ロンクを、ルーウィン・デイヴィスという人物像を借りて、いま一度世に問うてみようという優しい視点がそこにはある。物語ありきとは言え、こういった形でビッグネームの影に隠れた人たちにスポットが当たるのは喜ばしいことだ。
一方で、来年はいわゆる伝説的な大物アーティストの伝記映画もいろいろと控えている。4月にはジミ・ヘンドリックスの絶頂期の2年間を描いた『JIMI:栄光への軌跡』、5月にはミック・ジャガーもプロデューサーに名を連ねる『ジェームス・ブラウン〜最高の魂(ソウル)を持つ男』が公開されるほか、ビーチ・ボーイズの中心人物=ブライアン・ウィルソンの『Love & Mercy』や、AD/DCのリード・ヴォーカル=ボン・スコットの伝記映画も進行中のようだ。
音楽が売れないと言われて久しいこの時代に、音楽関連の伝記映画やドキュメンタリーがかくもたくさん作られていることに驚かされるけれど、そのどれもが対象への愛に溢れた力作であることにはもっと驚かされる。2015年も当コラムでは、映像と音楽が幸せな出会いを見せる作品をどんどん紹介いくので、ご期待ください。(文:伊藤隆剛/ライター)
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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