『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』
スコットランドを拠点とするバンド、ベル・アンド・セバスチャンのフロントマンであるスチュアート・マードックが初監督を務めた『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』が、いよいよ日本でも公開される。製作に『シックス・センス』や『ミュンヘン』で知られるプロデューサーのバリー・メンデルを迎え、ハッピーなのに切なさに溢れた、珠玉の青春ミュージカルに仕上げられている。正直、ミュージシャンの監督作品には大成功と呼べる作品は洋邦問わず多くないが、本作は想像を軽く上回る名作だと言い切ってしまいたい。
ベル・アンド・セバスチャンは、世界的な人気を誇るバンドだ。先日開催されたフジロックフェスティバル’15にもホワイトステージのヘッドライナーとして出演している。しかし誰にでも好まれるようなメガ・ヒットを連発する超メジャーバンドというわけではない。1996年の結成以来、むしろその真逆のスタンスで活動しながら、少しずつ着実にファンを増やしてきたバンドである。デビュー当初はバンドの写真をいっさい公表せず、インタビューにも応じない姿勢を徹底。それが静謐なアコースティック・サウンドや一貫したトーンでまとめられたアートワークとマッチングすることで、いっそう彼らのカリスマ性を高めたと言っていい。
スチュアートはこのバンドの創設者であり、大半の曲で作詞/作曲、ヴォーカルを担当している。2003年、ランニング中にこの映画のもとになるアイディアを思いつき、2006年から実際に脚本を書き始めたという。ベル・アンド・セバスチャンの活動をしながらの執筆のため、脚本はなかなか完成せず、それに先立ってサウンドトラック・アルバムをレコーディングすることに。この映画のベースになる楽曲をベルセバのメンバーらが演奏し、知り合いの紹介で知り合ったキャサリン・アイルトンをリード・ヴォーカルとしたアルバム『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』を2009年にリリースした。60年代のガール・ポップスを思わせるようなオールディーズ趣味全開のこのアルバムは、スチュアートとベルセバの新たな一面を垣間見せる作品として、古くからのファンにも好意的に受け入れられている。
サントラのリリースから本国イギリスで映画が上映されるまでには5年の歳月がかかっているが、スチュアートはこの間にベルセバのアルバム・リリースやツアーをこなしながら、キャスティングを進めていた。演技のできる歌手、歌える役者の両方から適材を探し出すため2000人規模のオーディションが行なわれたらしく、天才的な歌声と作詞//作曲の才能を持つイヴを演じるエミリー・ブラウニングも、そこから見出されたという。音楽や映画、文学の世界に閉じこもりがちな典型的サブカル男子、ジェームズを演じるオリー・アレクサンデルはもともと『ガリバー旅行記』などにも出演している役者だが、彼自身がエレクトロニカ系のユニット、イヤーズ・アンド・イヤーズで活動していることもあり、「ポップス史に旗を立てたい」と意気込むジェームズを等身大で好演している。(後編へ続く…)(文:伊藤隆剛/ライター)
・【映画を聴く】想像以上の傑作! “ベルセバ”のフロントマンが初監督した珠玉の青春ミュージカル/後編
『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』は8月1日より公開される。
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