(…前編より続く)映画監督に限らず、俳優やミュージシャン、テレビタレント、政治家まで、著名人の“2世”もしくはそれに近い血縁者が活躍することは、特に珍しいことではない。映画監督だけでも、ソフィア・コッポラ(父=フランシス・フォード・コッポラ)、ジア・コッポラ(祖父=同)、ダンカン・ジョーンズ(父=デヴィッド・ボウイ)、ブランドン・クローネンバーグ(父=デヴィッド・クローネンバーグ)、天願大介(父=今村昌平)、宮吾朗(父=宮駿)、深作健太(父=深作欣二)、安藤モモ子(父=奥田瑛二)、小林聖太郎(父=上岡龍太郎)、蜷川実花(父=蜷川幸雄)などなど、洋邦問わずたくさんの“2世”が活躍中だ。
・【映画を聴く】(前編)映画界の“世襲”はアリかナシか?ミシェル・ルグラン甥の監督デビュー作『ディアボリカル』
“2世”であることの強みは、ミュージシャンや役者であれば、声質や容姿に比較的表れやすい。偉大な親や親戚の血を引いているからと言って資質や作風までがまるまる継承されるわけではないが、少なくともその前段階である肉体的・遺伝的な共通項を有しているのだから、それは大きなアドバンテージと言える。
そういう意味では映画監督の親から映画監督の子への世襲ーー前述の並びで言えばコッポラ、クローネンバーグ、今村、宮、深作親子などは「親の背中を見て学ぶ」的な要素が多く、職人芸の継承に近いものかもしれない。深作親子のような友好的な関係もあれば、宮親子のように確執ばかりが取り沙汰される関係もあるが、いずれにしても「親父の背中」が子に及ぼす影響が大きいことは明白だ。
アリステア・ルグラン監督とミシェル・ルグランの場合、映画監督と映画音楽家という立場の違いもさることながら、直接会ったことも一度しかないとのことで、映画監督を志した青年の伯父がたまたま映画音楽家だったにすぎないとも言える。実際、SFホラー作品である『ディアボリカル』と、ルグランの手がけた『シェルブールの雨傘』や『ロシュフォールの恋人たち』といった映画音楽との間に何か共通項を見つけ出すことは難しい。アリステア監督からしてみれば、一度しか会ったことのない伯父と関連づけてサラブレッドと呼ばれたり、それに見合う作品を要求されたりすることは迷惑以外の何物でもないだろう。しかし伯父であることと関係なく、アリステア監督はミシェルの音楽が大好きらしく、もしかすれば今後作品上での共同作業が実現することがあるかもしれない。その時こそ“ルグランの血統”が必然性を持って浮き彫りになってくるはずだ。
こういったニッチな洋画が日本で上映されること自体が少なくなってきている昨今だからこそ、前評判ばかりを鵜呑みにせず、ニュートラルな気持ちで接してみてほしい作品だ。(文:伊藤隆剛/ライター)
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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