本国フランスで100万人を動員する大ヒット作になった『愛しき人生のつくりかた』が、いよいよ日本でも公開される。国民的歌手のアニー・コルディ、『仕立て屋の恋』などで知られる名優ミシェル・ブラン、注目の若手俳優マチュー・スピノジが3世代の家族に扮したコメディ・タッチの清々しい人生讃歌で、スタンダード曲「Que reste-t-il de nos amours ?」が随所で物語を美しく彩る。古くはフランソワ・トリュフォー監督の1968年作『夜霧の恋人たち』、近年ではメリル・ストリープ主演の2005年作『プライム』で起用された名曲なので、そのメロディを聴いてピンとくる映画ファンも多いだろう。
夫に先立たれたマドレーヌ(アニー・コルディ)、その長男で郵便局を定年退職したばかりのミシェル(ミシェル・ブラン)、大学の文学部に籍を置きながらもアルバイト漬けでモラトリアムな日々を過ごすロマン(マチュー・スピノジ)。年齢も置かれた立場も違う家族3代がそれぞれ人生の岐路に立たされることで共通した思いを抱えながら、自分にとって大切なものは何かを見つめ直す。そして新たな一歩を踏み出すまでの様子を、細かなエピソードの積み重ねで綴っていく。
原作は『ナタリー』などで知られるダヴィッド・フェンキノスの『Les Souvenirs』という35万部を売り上げた人気小説で、本作の原題もこれと同名。“思い出の数々”という意味の原題が、日本ではまったく異なる『愛しき人生のつくりかた』に変えられているわけだが、これは物語の本質を分かりやすく抽出した、いいタイトルだと思う。人生は“過ごす”ものではなく“つくる”もの。穏やかでありながらも人生を切り拓くことに前向きな登場人物たちの信条をうまく言い当てている。
監督は、俳優としても知られるジャン=ポール・ルーヴ。本作にもロマンがアルバイトをするホテルのオーナー役で登場している。重いテーマを深刻ぶることなく軽妙かつていねいに、パリの街並やノルマンディーのエトルタの美しい自然と調和したテンポ感で描いていく手際のよさが光る。(後編へ続く…)(文:伊藤隆剛/ライター)
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