成長の鈍化が取りざたされているとはいえ、その市場規模の大きさで世界中から注目を集め続けている中国。ムビコレでは、「ハリウッドで存在感を増す中国」を2回に分けて解説する2回目。
中国でのハリウッド映画人気を見込み、逆に中国企業がハリウッドの企業を買収したり、出資するケースも出ている。
(中国のIT大手)アリババの映画部門アリババ・ピクチャーズは昨年『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』に出資したが、今後もハリウッド映画の製作に力を入れるといわれる。映画業界紙バラエティによると、パラマウントに出資する噂も出ているという。
『アイアンマン3』『ルーパー』などに製作出資してきた(中国の映画会社)DMGエンタテインメントは、『トランスフォーマー』を題材にしたライブアトラクションを(アメリカの玩具メーカー)ハズブロと共同製作すると発表。(中国初のメディア分野専門ファンド)チャイナ・メディア・キャピタルは、ロン・ハワード監督とプロデューサーのブライアン・グレイザーが設立した製作会社イマジン・エンタテインメントに1億ドルを出資すると発表した。
また2012年に米国第2位のシネコンチェーン、AMCを買収したワンダ・グループ(※)は3月初旬、同業のカーマイク・シネマズを11億ドルで買収すると発表した。両社のスクリーン数は計8400で全米トップになる。1月中旬にはレジェンダリー・エンターテインメントを35億ドルで買収すると発表。同社は『パシフィック・リム』『GODZILLA ゴジラ』などを製作した製作会社で、『グレート・ウォール』も同社の製作だ。ワンダの王健林会長は「世界の6大スタジオの独占を崩したい」と述べており、ウォルト・ディズニーや20世紀フォックスなどハリウッドの6大メジャースタジオに並ぶことを目指しているようだ。
中国では外国映画の年間上映本数が34本に制限されているが、米中の企業が合同で製作した場合は中国映画扱いになることもある。ワンダではレジェンダリーを買収することで同社の作品を中国映画として国内上映することを狙っているとみられる。
(※不動産会社として創設され、ショッピングモールやホテル事業を展開。中国全土で映画館も運営し、映画製作・配給も手がける。王健林会長は中国のNo.1富豪に選ばれたこともある)
一方、中国市場を巡るハリウッド映画と中国映画の戦いは激しさを増している。年間興収ナンバーワン作品を見ると、10年はハリウッド映画『アバター』(興収2億400万ドル)、11年はハリウッド映画『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』(1億6500万ドル)、12年は中国映画『ロスト・イン・タイランド』(2億ドル)、13年は中国映画『西遊記〜はじまりのはじまり〜』(1億9700万ドル)、14年はハリウッド映画『トランスフォーマー/ロスト・エイジ』(3億2000万ドル)、15年はハリウッド映画『ワイルド・スピード/SKY MISSION』(3億9100万ドル)で、この年は2位が僅差で中国映画『モンスターハント』(3億8200万ドル)となっている。
また、中国映画の歴代興行収入ナンバーワン作品は前出の『モンスターハント』だが、今年2月に公開がスタートしたチャウ・シンチー監督の新作『美人魚』が記録を更新中だ。興収は5億ドルを超え、現在も伸び続けている。
ハリウッドを飲み込むチャイナマネーだが、かつてはジャパンマネーが飲み込んだ。ソニーがコロンビア・ピクチャーズ、松下電器がMCA(ユニバーサルピクチャーズの親会社)を買収し、東芝がタイムワーナーに出資、パイオニアが『ターミネーター2』『クリフハンガー』などを製作したカロルコに出資した。その後、ソニー以外は全て撤退。ソニーも、経営トップに迎え入れたピーター・グーバーとジョン・ピータースの乱脈経営で巨額の赤字を出し、経営が立て直るにはかなりの時間を要した。日本企業はハリウッドをうまくコントロールできなかったが、中国企業は今後ハリウッドとどう向き合っていくのだろうか。(文:相良智弘/フリーライター)
相良智弘(さがら・ともひろ)
日経BP社、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て、1997年の創刊時より「日経エンタテインメント!」の映画担当に。2010年からフリー。
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