(…前編「ハリウッドセレブが語る思い入れ」より続く)
【映画を聴く】『サンセット・ストリップ 〜ロックンロールの生誕地〜』後編
サンセット・ストリップの磁場とは?
本作『サンセット・ストリップ 〜ロックンロールの生誕地〜』の主人公はサンセット・ストリップという場所そのものだ。“地球上でもっとも騒々しいストリート”と呼ばれるだけあって、そこから発信されるカルチャー、特に音楽は街の喧噪を反映したアグレッシヴなものが多い。100年近くの歴史の中で、さまざまなスタイルの音楽がこの場所で栄枯盛衰を繰り返してきた。
前編で触れた“セックス、ドラッグ&ロックンロール”的な60〜70年代のガレージやサイケデリック、ハードロックに始まり、80年代にはヘヴィーメタル、90年代にはグランジやヒップホップが台頭。オジー・オズボーン、ガンズ・アンド・ローゼズのスラッシュやダフ・マッケイガン、スマッシング・パンプキンズのビリー・コーガン、アリス・クーパー、昨年末に亡くなったモーターヘッドのレミー・キルミスターなど、作中でコメントを寄せている面子だけ見ても、土地との関連性を強く感じさせるような音楽性を持ったミュージシャンばかりだ。珍しいところでは、レミーと同じく昨年亡くなったキム・フォウリーなども登場するので、熱心なロック・ファンは要チェック。ランナウェイズのプロデューサーであり、自身も多くのアルバムを作ってきたこの奇才の姿を目にすることができる機会はそう多くない。
本作にはそういったミュージシャンだけでなく、ハリウッドセレブや当時の店のオーナーなども多く出演しているが、中でもキアヌ・リーブスとジョニー・デップは、自身もミュージシャンとしての顔を持っており、ミュージシャンとしてこの地に刺激された要素も多々あったに違いない。ちなみにキアヌ・リーブスはドッグスターというグランジ系のサウンドを聴かせるバンドでベースを担当(現在は休止)。ジョニー・デップはバンド活動のほか、ローリング・ストーンズやオアシスのアルバムなどにもギタリストとして参加している。両者の音楽活動はともに匿名的と言っていいもので、ハリウッドスターとしての知名度を利用したものではない。そんな彼らの活動スタンスは、サンセット・ストリップの環境の中で自然と培われたものと考えていいかもしれない。
監督のハンス・フェルスタッドは、2004年のドキュメンタリー『MOOG(モーグ)』で音楽ファンにもよく知られる人物。シンセサイザーの名機とその開発に人生を賭けたモーグ博士を描いたこの作品のほか、15年にわたってニッチかつ音楽愛に溢れるドキュメンタリーを作り続けている。自身もミュージシャンとして活動しており、日本でもライヴやピーター・バラカンとのトークイベントを行なったりしている。
その土地の“磁場”が、ある一定の方向性を持つ音楽をミュージシャンに作らせる現象はサンセット・ストリップに限ったことではないし、特に珍しいことでもない。しかし本作を見た後に改めてこの場所に縁のある音楽を聴いてみると、その“磁場”の強烈さが並大抵でないことが理解できる。“地球上でもっとも騒々しいストリート”の呼び名は、決して大げさではない。(文:伊藤隆剛/ライター)
『サンセット・ストリップ 〜ロックンロールの生誕地〜』は4月23日より全国順次公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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