(…前編「〜トム・ウェイツからの“お詫びのしるし”とは?」より続く)
【映画を聴く】『Smoke デジタルリマスター版』後編
風変わりなクリスマス・ストーリーを彩る
レイチェル・ポートマンの音楽にも注目
十数年の間、毎日同じ場所で同じ時間に写真を撮り続けるオーギーが、その理由をポールに話して聞かせるラストシーン。ここでは10分以上にわたってオーギーが話し、ポールが静かに聞き入る姿だけが映し出され、話の内容が映像で補足されることはない。見る者はただ、オーギーを演じるハーヴェイ・カイテルの豊かな語り口から、このクリスマス・ストーリーのイメージを膨らませていくことになる。
その後、オーギーの話を聞き終えたポールが、彼の話をもとにした短編小説『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』を書くため、そのタイトルをタイプライターで打ち込んだところで先述のトム・ウェイツの楽曲「Innocent When You Dream(夢見る頃はいつも)」が流れ出す。同時に、ここで改めてオーギーの話を再現したモノクロ映像が始まり、作品はエンディングへと向かう。
美しく普遍的なメロディと彼のダミ声が絶妙に調和した名曲だが、「夢見る時のあなたは無邪気」と歌われるこの曲の歌詞は、「信じる者が1人でもいれば、その物語は真実に違いない」というポール・オースターの言葉と密接につながっている。彼の楽曲はもともと映画との親和性が高く、フランシス・フォード・コッポラ監督の『ワン・フロム・ザ・ハート』やジム・ジャームッシュ監督の『ナイト・オン・ザ・プラネット』でも大きな役割を果たしている。
また、劇伴を手がけるレイチェル・ポートマンは、本作の後にもジョン・アーヴィングの『サイダーハウス・ルール』やカズオ・イシグロの『わたしを離さないで』など、長編小説の映画化作品をいくつか手がけている人。ここでは「Smoke Gets in Your Eyes(煙が目にしみる)」や「Cigarettes and Coffee」などのタバコネタのポピュラーソングを引き立てる小曲をいくつか提供。控えめながらいい仕事をしている。
21年前の公開以来、クリスマス時期には毎年DVDで見返しているというファンがとても多い本作(僕もそうです)。今年はぜひ、劇場の大きなスクリーンで見返してみてはいかがだろう。(文:伊藤隆剛/ライター)
『Smoke デジタルリマスター版』は20016年12月17日より全国公開
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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