『おとなの恋の測り方』
人を見かけで判断しない。そんなことは当たり前だと思っている。だが、実はそれは“一般論として”に過ぎない認識かもしれない。『おとなの恋の測り方』は身長差のある大人のカップルの紆余曲折をコメディ・タッチで描きながら、観客自身の良心、常識がどれだけ確かなものなのかを問いかけてくる。
・自信過剰なエゴイストが権力を握るとどうなる!? 今のハリウッドでは描けない問題作!
有能な弁護士のディアーヌは、数年前に離婚した夫と今でも仕事上のパートナーで、何かにつけて口論が絶えない。そんなある日、一人暮らしの自宅に戻った彼女に電話がかかってくる。相手はアレクサンドルと名乗り、ディアーヌがレストランに置き忘れた携帯を拾ったので連絡したと言う。会話が弾み、直接手渡したいという彼の提案を受け入れ、ディアーヌは彼と翌日カフェで会う約束を交わす。電話でのやりとりから、期待を募らせた彼女はドレスアップして待ち合わせ場所へ赴くが、そこで待っていたのは小学生と変わらない身長の低い男性だった。
様々な違いや格差のあるカップルを描いた恋愛映画はいくつもある。他者からの心ない態度に2人で立ち向かう話はいくらでもある。『おとなの恋の測り方』が優れているのは、職業上そういう差別意識に対して人一倍敏感なはずのディアーヌが、建前通りに反応しない自分の小ささを思い知らされるのを描いている点だ。イザベル・ユペール主演の『エル ELLE』にも出演しているヴィルジニー・エフィラが、恋する気持ちと世間体を気にする心のせめぎ合いで悩むヒロインを好演。ディアーヌの苦悩する姿に、他人事には無意識にきれいごとで片づけてしまう人間の無神経さを突きつけられる思いだ。
そして、なんといっても『アーティスト』のジャン・デュジャルダンの名演が素晴らしい。人を素敵にさせるのは、正しい自信の持ち方と思いやり。それをチャーミングに演じてみせる。実は身長182センチのデュジャルダンは今回、136センチという設定。CGを駆使するのみならず、膝をついたり遠近法を利用したり、と原始的とも言える手法も使ったという。原題は「Un homme a la hauteur」。ひとかどの男という意味だが、「hauteur」とは高さ、身長の意でもあり、ダブルミーニングの効いたタイトルも心憎い。(文:冨永由紀/映画ライター)
『おとなの恋の測り方』は6月17日より全国順次公開される。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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