【映画を聴く】『レディ・バード』前編
“意識高い系”だけどちょっとズレてる
本当の名前が気に入らないので、家族や友人たちに自分を「レディ・バード」と呼ばせる。規律を重んじるカトリック系の高校で、髪を赤く染めている。母親とケンカした腹いせに走行中のクルマから飛び降りて、右腕を骨折。地元のサクラメントより文化的なニューヨークの方が自分に合っていると思っている。夜の草原で恋人と空を眺め、見つけた星に「ブルース」と名づける……。
・『レディ・バード』グレタ・ガーウィクはじめハリウッドで際立つ女性監督の躍進
“意識高い系”だけど確実にどこかがズレていて、空回りを繰り返すヒロイン。彼女の高校最後の1年の暮らしぶりを描いた『レディ・バード』は、ゴールデン・グローブ賞で作品賞&主演女優賞を受賞、アカデミー賞5部門でノミネートなど、日本公開前からすでに大きな話題になっている。
この映画の見どころは、何と言ってもグレタ・ガーウィグ監督が自身の高校時代から想像を広げた脚本の味わい深さと、ガーウィグ監督の分身でありながらも自分らしさを忘れないシアーシャ・ローナンの熱演ぶりに尽きる。しかし、イタさばかりが先立ってしまうこのヒロインを優しく包み込むジョン・ブライオンの音楽も、この映画の密やかな魅力だ。
もともとバンドのギタリストとしてキャリアをスタートさせた人ということもあり、この『レディ・バード』でも木管楽器やストリングスとバンドサウンドを掛け合わせた等身大で親近感のあるスコアが特徴だ。中でもレディ・バード本人のテーマ曲と言える「Lady Bird」は、下降を続ける7つの音階をピアノがリフレインするポケット・シンフォニーという感じで、何をやってもうまくいかない彼女の複雑な心の内をうまく“翻訳”している(後編へ続く)。
・後編「巧みな展開をほどよい距離感で援護するサウンドトラック」に続く…
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