1997 年10 ⽉2 日生まれ。東京都出身。主な映画出演作は『トイレのピエタ』(15)、『湯を沸かすほどの熱い愛で』(16)、『十二⼈の死にたい⼦どもたち』(19)、『⻘くて痛くて脆い』(20)、『99.9―刑事専門弁護⼠―』(21)、『⼤名倒産』(23)、『法廷遊戯』(23)、『市⼦』(23)、『52ヘルツのクジラたち』(24)など。
ドラマ『花のち晴れ〜花男Next Season〜』(18)、NHK 連続テレビ⼩説『おちょやん』(20〜21)、『杉咲花の撮休』(23)、『アンメット ある脳外科医の日記』(24)など、TVドラマやCMにも多数出演。
萩原くんは春の風みたいにふわ〜っと舞い込んでいく人(杉咲)
『孤狼の血』シリーズなどの柚月裕子が地方警察の広報職員の女性を主人公に据えた異色の警察サスペンスを映画化した『朽ちないサクラ』。親友の変死事件の謎を追おうと、捜査する立場ではないにも関わらず行動するヒロイン、森口泉を杉咲花が演じる。そんな彼女を見守りながら、献身的にサポートする同期の警察署員・磯川俊一を演じるのは萩原利久だ。
過剰にドラマティックにならず、地道に真実へと迫っていく一途なバディを演じた2人に、久々の共演について、作品のテーマなどについて語ってもらった。
・杉咲花×萩原利久、バディ役で2度目の共演! 息の合った掛け合い
・杉咲花主演!異色の警察ミステリーに萩原利久、豊原功補、安田顕出演!映画『朽ちないサクラ』特報
杉咲:オファーをいただいた当時はうまく言語化できなかったのですが、撮影を終えた今、改めて考えると、泉という人間の失敗から始まる物語というところに惹かれたのかもしれません。そんな 主人公のことを、もしかしたら観客は好意的に見られない方もいるかもしれませんが、私は失敗に対して自分なりに責任をとろうとする人を見捨ててはいけないと思うし、そんな姿を粛々と描いたこの作品にどこか共鳴するものがあったのではないかと感じました。
萩原:お話をいただいて脚本を読ませていただいた時、「ものの見え方って色々あるな」とすごく感じました。僕にはそれが現代の社会のようなものに見えてしまって。演じた磯川という役自体は物語の中で起こる出来事の真ん中にいるわけではなく、むしろすごく客観的な部分から触れてはいるんですけど、そういう部分も含めて現代のSNSについてだったり、今の世の中のようなものをすごく感じました。
登場人物1人1人の感情に共感するのとはまた違うのですが、 ちょっと心の中がぞわっとするというか。何か覚えのある感じが僕の中ではすごく引っかかって、チャレンジしてみたいという思いがすごく芽生えました。同時に、泉さんを演じるのが杉咲さんとお聞きしたのもあります。僕はそれこそ『十二人の死にたい子どもたち』(2019)でご一緒してから、もう一度どこかで共演してみたいという気持ちがふつふつとあったんです。
杉咲:うれしいです。
萩原:なので、今回はすごく明確に「やらせてもらいます」と言ったのを覚えてますね。
杉咲:『十二人〜』の時は作品の内容や役柄の関係性もあって、コミュニケーションを取れる機会が少なかったので、今回ほとんど初めましてのような感覚でご一緒しました。萩原くんは、本当に軽やかな人ですよね。磯川という役を演じられたことも相まっていたのか、春の風みたいにふわ〜っと舞い込んでいく人だなあって。明るくて、お話好きで。息苦しいシーンが多い中で、自由に息が吸えるような気持ちにさせてもらえる心強い共演者さんでした。
萩原:すごい(笑)。マジでいろんなとこで言いたいです。「僕は春の風です」って自慢したい(笑)。次からは自分のことをそう言いたいです。こんな風に言ってもらいましたけど、僕は僕で、緊張のようなものを初日でファっと取り去ってもらいました。
やっぱり現場というものはある程度緊張します。初日であればなおのことそうですしどんな作品でも例外はないことですけど、 杉咲さんも仰ったように、独特な……初めましてじゃないのに初めまして、のような初日だったんです。ちょっと別のベクトルの緊張みたいなものを僕は感じていたんですが、それを取り去ってくれました。
お芝居をする上で僕が素敵だなと思う共演者の方に共通で感じるのは、委ねたくなる、身を任せたくなる感覚というか。それはたぶん、緊張に対しての1番 強みになる安心のような感覚というか。パフォーマンスをする上で過度な緊張は僕にはとてもマイナスに作用してしまうので、ちょっとしたコミュニケーションでそれを取り去ってもらいながら、でも本番になると、いい意味での緊張感をちゃんと出していただける。何から何までしていただいたような感覚になります。
杉咲:いやいや、そんなことないです。
萩原:なかなか同世代の方にこう してもらえることって、そう多くはない気がしますし、すごく刺激をいただく 存在でしたね。
杉咲:(泉と磯川が事件について話し合う)喫茶店のシーンです。
杉咲:(萩原に)特に話合ったりはしてないかな。
萩原:そうですね。具体的な距離感だったり、どうしよう、ああしようみたいな話は特別していなくて……。
杉咲:お互いが隣りに立って、呼吸を感じ取ろうとしていた記憶があります。
言葉を交わさなくても、見つめているものが近いような感覚が私にはあって。
萩原:何だろう……
杉咲:実際現場に立ってみて、音にして発することで「この領域まで踏み込めるのだろうか」と感じて、話し合いながら修正をしていった場面はいくつかありました。土手で磯川くんと話しているシーンとか。
萩原:段取りとかをする段階で「絶対にこうしてほしい」みたいなことはなくて。その分、自分の想像していたものがいざ現場に入って、いろいろ目で見て聞いて感じて、その中で自然と所作だったり、動きや座る位置だったり、距離感みたいなものは、現場を見て、触れてやってみた結果、意外とそのまま生きた部分はあるのかなと思います。
淡い恋心、助けたいと思う感覚——自分と重なる部分は掴みやすかった(萩原)
杉咲:私の中では、よき同期であり、なんとなく頭の中にその存在がずっとある人、みたいな。明確に関係性を言語化できるようなものではない気もしているのですが。
萩原:そうですね。僕もなんとなくではあるんですけど。これは僕のリアルの話になりますが、同じ業界にいるけど完全に同業じゃない友だちって、すごくオンリーワンな立ち位置として自分の中にはあるんです。全く遠いところにいる相手とはやっぱり話せないことも多いし、近すぎるとそれはそれで気を遣う部分がある。そういう意味で絶妙な距離感の、同じ業種だけど 全く同じことをしていないみたいな、すごくちょうどいい存在が僕にはいるんですけど、距離感としては、それがすごく僕の中でイメージとしては近いものがあって。
泉と磯川に関しては、何でもかんでも共感してわちゃわちゃっていうのではない、そういうオンリーワンな距離感というか……これを言語化するのは難しいんですけど。それこそ、なんとなく頭の中にいるというか。常々いるわけでもないし、でも完全に忘れることもないし、という。……何ですかね、これ(笑)。うまく言えないですけど、そういうイメージで僕はキャッチしていたかなと思いますね。
杉咲:そうかもしれません。滑らかに本番が始まって、カットがかかったら、緩やかに現実に戻っていく。その過程をずっとシェアしているみたいな気持ちでした。
萩原:僕も本当に心穏やかでした。 ご一緒してる時間は過度に緊張するわけでもなく、意識的にこうしなきゃってなるわけでもなくて、始まりから終わりまでが、本当に一連の流れのように進んでいく感覚はすごく僕も好きでした。
杉咲:一枚絵として見たときに美しいものを描きたいということが 、監督の中で特に重点を置かれていたことだったのではないかなと感じていて。そこに到達するためにはどこまでも時間をかけていく現場でしたし、だからこそ繰り返しのシーンを一連で撮ることも多かったので。そこに鮮度を保ち続けられるのかというのは、かなりすごく緊張するポイントでもありました。でもだからこそ、あのような迫力のある画が撮れたんだと感じます。撮影の合間に監督が何度か、その日まで撮りためてきた映像を繋ぎ合わせて作ったものをみんなに共有してくださいました。言葉を多く交わしたわけではなかったのですが、監督なりの物づくりの勢を見せてくださっている感じがして、うれしかったです。
萩原:僕はこの現場に入っていた前後はドラマ撮影が多かったので、ここまで一連で撮るというのがすごく久しいことで。もっと言うと、ここまで一連でやったのは、僕は初めてかもしれないぐらいだったので、独特の緊張感を持っていました。僕にとっても、鮮度というのは1番の敵だったりします。撮っているうちに慣れだったり、いろんなものが変わって鮮度がなくなっていくのが僕自身の課題だと感じる部分ではあるので、常に天敵と戦っていく感覚はありましたね。戦わなきゃというか、自分でちゃんと 向き合わなきゃいけない点だなと感じました。
杉咲:むしろ私は、生活の地平から切り離して演じることの方が難しい気もしていて。
萩原:どちらにも難しさがあると思いますけど、僕もどっちかというとキャラクターの方がやっぱり難しいと感じるので。
杉咲:自分以外の他者を演じるということは、味わったことのない経験を自分という肉体を通して演じるわけですから、やっぱりとても難しいです。その心の機微を自分の感覚と照らし合わせながらおそるおそる役ににじり寄るような感覚なので、正直なところすごく怖くもあります。ですが、“その人だけの生活”みたいなものを感じると、自分と同じ人間なんだというところからで少し糸口が見つかったりもするので、 むしろ、特別ではないということが、自分にとっては大きなポイントだったりするんです。
萩原:基本的に役を演じる時に、自分とまるまる一緒ってことはまずないですよね。自分じゃない部分を構築していかなきゃいけない中で、違うなりにも共感できるものだったり、似たようなものを感じたことがあったり、絶対的に分かる部分があると、そこから広がっていくというか、キャッチはしやすく。今回で言うと、警察官の役は全くやったことなかったですけど、磯川のちょっとした淡い恋心の部分だったり、目の前にいる泉に協力してあげたい、助けてあげたいと思う感覚的なものはわかります。そういうふうに自分と重なる部分というのは言葉以上に掴みやすい。そういう部分に触れて、1個ずつ寄り添っていくことで近づいていく感覚があります。
萩原:信じること、疑うこと……
杉咲:難しいですね。
萩原:僕からいいですか? 疑うということに関しては、僕はある種必要だなと思いましたね。別に決してネガティブな意味だけじゃなくて、社会はそれだけ情報があふれているし、目の前にあるものが全て必ずしも真実ではないとも思うんです。疑ってどうこうするわけじゃないし、“疑う”までいかないのかもしれないですけど、自分を守るためにも意識はしながら生活するべきだなと感じています。僕は疑い深い方でもあるので、信じるということはまた別次元である種難しいことですよね。でも、信じられる存在が自分の周りのどこかにあったらいいな、と思います。そんな簡単にできることでもないからこそ、“信じられる”ことはそれだけですごく大きな安心材料になります。信じられることで楽になること、クリアになることは僕自身の体験でもあります。日常の中にそういうものがあるのはいいなと思います。
杉咲:そうですね、信じることの方が難しかったりしますよね。
杉咲:というよりは、ちゃんと疑えているだろうか、みたいな……。例えば物づくりの場であっても、自分の感覚だけを信じていたら、やっぱりそれは自分だけにしか見えていない主観的な世界になってしまうので、どんなときも人の声に耳を傾けられるように、自分のことを疑うことって必要だと思うんです。それと同時に、明確に大切にしていたいものを誰がなんと言おうと守り続けるくらいの気概も、胸の中で燃やしていたいなって。
(text:冨永由紀/photo:小川拓洋)
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