1987年2月6日生まれ、神奈川県出身。01年公開の映画『リリイ・シュシュのすべて』の主演でスクリーンデビューし、04年には 『偶然にも最悪な少年』で日本アカデミー賞新人賞受賞。『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』(08年) 、『ボックス!』(10年)、『極道大戦争』(15年)、『劇場版 おいしい給食』(20年)、『WATER BOYS2』(04年)、『カラマーゾフの兄弟』(13年) など多数の映画ドラマで主演を務める。映画化もされた『ROOKIES』(08)、NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』(17年)、ミュージカル「生きる」など多数作品に出演。21年には映画『ヤクザと家族 The Family』、『太陽は動かない』が公開。また、写真家としても活動。映像作品に『Butterfly』(監督・主演)、アーティスト「DEVIL NO ID」MV(監督)などがある。
『リカ ~自称28歳の純愛モンスター~』市原隼人インタビュー
キスシーンから始まった高岡早紀との“関係性”
リカのように純粋な人がいたら、好きになってしまうかもしれない
第二回ホラーサスペンス大賞を受賞した五十嵐貴久作の「リカ」シリーズが、2019年と2021年春のドラマ化を経て映画化された『リカ ~自称28歳の純愛モンスター~』。理想の家庭を共に築く相手を求めて暴走するリカ(高岡早紀)と、逃亡中の彼女を追う刑事・奥山の攻防が描かれる。
2019年放送のドラマ『リカ』最終回のその後を描いた本作で奥山に扮し、ミイラ取りがミイラになるかのような心理戦を演じた市原隼人に、作品を通して感じた人間観、スクリーン・デビューから20年を迎えた今の思いを語ってもらった。
・純愛モンスター・高岡早紀が乙女すぎる! 怖いけど突っ込みどころ満載
市原:そうなんです。作品は好きな角度から自由に見ていただくことがお客さまの特権ですから。これを見て悲鳴を上げる方もいれば、笑い声を高らかに上げる方もいれば、リカを自分の代弁者だと思って、気持ちよく映画館を去る方もいると思うんです。「さあ、あなたはどれでしょう?」という作品です(笑)。
市原:難しかったです。何の気なしに映画を見て笑っていたら、取り返しのつかない感情になってしまうような。「この映画のジャンルは何ですか」と問われると…、僕は分からないんです。リカの人格を見て、自分を見つめ直してみてください、というしかない。
リカって、一見すごく偏った人間に見えますが、非常に普遍的であって、人間本来の姿だと思うんです。
社会に出ている私たちは、自制心とか協調性とかルールとか規則とか、色々なものを信じて、相手のことを思いやって生きていきますが、リカは個で生きてるんです。リカの中での当たり前や基準というものがどんどん周りとかけ離れていく。それでも結局は同じ人間です。つまり、私たちもどこか一つ、人生において選択を間違えるとリカのような運命を手繰り寄せてしまうという可能性があるという物語として受け取りました。
市原:奥山は常に迷いの中で生きているような人間なんです。真面目であり、責任感と正義感もある。そんな実直な面が裏目に出て、真面目であればあるほど、外れた道でさえも真面目に突き進んでしまう男なので、そこがリカと関わっていく内ににどう転がっていってしまうのか。この映画の本質は表面的なものだけではなく、非常に内面的で、深い精神的な面でのリカとの対峙だと思います。
市原:全ては表裏一体、善のためなら悪にもなってしまう世界じゃないですか。どんなことでもそうだと思うんです。まっとうな人生しか生きてない人であっても、誰かのためだったら道を外してしまう可能性もあるのが人間だと思うんです。大げさかもしれないけれど、人格とは何なのか。どう形成されていくのか。どう理性を保っていくのか。例えば、誰かが発する一言の裏にはいろんな思いがある。僕たちはより一層、人の言葉を理解しようとする気持ちを持たなきゃいけないんじゃないか、そんなことを考えながら演じました。
市原:リカはサイコパスと呼ばれて、何を考えているか分からない。次に何が来るかも全く分からない存在でした。リカとの関係性は、ジェットコースターのような感覚で、いつ振り落とされるのか、いつ置いていかれるのか、置いていかれたと思ったら、もう1回返ってきて轢かれるんじゃないかと。リカの人格形成の過程に原因があると思いますが、リカの考えることや求めることは、果たして悪いことなのか? リカの罪を恨むことはできても、リカ自身を恨むことを、奥山がつき通せなかった部分があり、リカの全てを否定することができなかった部分が多いんです。
市原:どんなことでも、リアルを求めたくなるのですが、「役」として務めるべきところであれば、自分が今まで否定していた意見でさえも肯定しなければならない。全てをひっくり返さなければならないのが役者の仕事だと思うので、非常に当てはまると思います。
市原:ある意味、共感できる部分もたくさんありました。奥山は生々しい人間臭さがあるので。ドラマティックとか、映画みたいな話だねとか、本当に燃えるような一生に一度の恋愛だったねとか、そういうもので収まるものはなく「生々しいものを見てしまったな」という感覚に近いです。このリカという人間を許せるか許せないか、それを誰かと論議してみたくなりました。
市原:そうなんです。半端なところじゃなく、深く深く表現している。
耐えきれないような画もあるにはありますが、内面的な部分の戦いを見ていただきたいです。その内面的な部分は全ての方に共通するものだと思います。いろんな方が妄想もするだろうし、いろんな欲……いい欲もあれば、一方的な私利私欲もあるだろうし。
普段、人に見せないような姿を全部さらけ出しているのがリカだと感じました。そんなリカみたいに、相手を疑わずに全てを話してくれる純粋な人が僕の周りにいたら、僕は逆に好きになってしまうかもしれないですね。
市原:怒涛のような撮影だったんです(笑)。もう一気に入り込みました。撮影前はもちろん、いろいろ準備をしたり、考えたりしていたのですが、高岡さんとの撮影初日がキスシーンだったんです。あれはずるいなと…思いました(笑)。
リカを追い求め過ぎた結果の幻想的なシーンなのですが、その撮影が一番最初で。でも、そのリカとのシーンから始まったからこそ、リカと奥山の関係性を作りやすかったです。
市原:純粋に奥山をなぞっていけば、自分の後輩を窮地に落とし込んだのがリカなので、最初の入り口はリカを恨んでいる。でも、奥山の人生にもトラウマがあり、それがリカと重なってしまう。僕らも普段は気丈に振る舞っていても、日常の中で常にどこかで悲しんで苦しみながら、結局、誰もが助けを求めているようなところがあるんじゃないかなと思うんです。そういうものを掘り出していければいいと思って演じていました。
体力面で厳しくなる前に、今、アクション作品を作ってみたい
市原:節目というのは感じないです。ただ、この業界が20年で大きくいろんなことが変わってきたのを感じています。まず働き方改革があり、それによって現場での追い込み方も変わってきました。いろいろな規制の中で、人間味を出すことが難しい場合もあります。いい変化としては、SNSで様々な意見を聞けるようになったり、自分の意見を発信できたりまだ目の前には“コロナ”という、どうしても逃れられない越えなければならない大きな壁があって、これからどうなるのか、分からない部分もありますが、やっぱり僕は人の心を見て話したいので、これからも変わらず人の情けと関わっていきたいと思います。
今、34ですが、これからできないこともたくさん出てくると思うんですね。
芝居を始めた最初の頃は、その時の勢いだけでできていた時期もあり、それを無垢な感じがいいと言っていただけたこともありましたが、今は、やりたいことや、やるべきことがみえてきて、その為にすべきことがたくさんあるということを実感し、焦ってます。やりたいことの一つが、アクションなんですが、正直40過ぎたら、身体的にきびしいこともでてくると思うんです。感情的なアクションはできると思うんですが、技術に伴ったアクションっていうものは、体力面でどんどんできなくなってくるので。
市原:やりたいです。僕は、子どもの頃からジャッキー・チェンの映画が好きだったので、ジャッキーの映画のように子どもから大人まで、みんなが笑えたり、感動でき楽しめる作品がやりたいです。2歳から、器械体操、水泳、小学校で空手を始めて、その後もボクシングもしたり、体を動かすことが好きなので。自分の好きなことで、妥協のない作品を一つ作ってみたいといつも思っています。
市原:常に考えています。自分で企画して映画を作りたいです。やっぱり僕は映画出身、『リリィ・シュシュ〜』で役者を始めているので。そこで培ったものがすごく大きいんです。そのとき出会った方々を今でも変わらず敬愛してますし、「映画っていいな」と常に考えさせられます。
市原:作りたいです。趣味なんだけど、ビジネス。ビジネスなんだけど趣味。その混沌としてるのがエンターテインメントだと思うので。夢を売って食べていく商売ですから、どれだけ自分自身が夢を持てるかが絶対大事だと思います。
ふとわれに返ると、自分は何をやってるんだろうと思うことも、たくさんありますが、常にどれだけの夢を持てるかというのがエンターテインメントの世界で生きていく役者として大事なポイントなのかなと思っていますし、現実を見据えながらも夢や憧れの中で想いを形にできるように頑張りたいです。
(text:冨永由紀/photo:小川拓洋)
(メイク:大森裕行〈VANITES〉/スタイリスト:小野和美)
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