『デビルズ・ダブル −ある影武者の物語−』ラティフ・ヤヒア インタビュー

サダム・フセイン長男の影武者がモデルの衝撃作、そのモデルとなった本人が登場

#ラティフ・ヤヒア

映画を見るのはつらかった。気持ちを落ち着かせるために精神安定剤も……

サダム・フセインの長男で「狂気の申し子」と呼ばれていたウダイ・フセイン。残虐な性格で人々に恐れられ、父親の権力をバックに非道の限りを尽くしたウダイの影武者をつとめた男の半生を描いた衝撃作『デビルズ・ダブル』が、1月13日より公開される。

本作の主人公は実在の人物であるラティフ・ヤヒア。イラクの裕福な家庭に生まれた彼は、家族を守るために影武者をつとめることを余儀なくされ、ウダイの常軌を逸した日常に組み込まれていく。

殺人、強姦は日常茶飯事。拷問を楽しみ、父親の側近カーメル・ハンナを人々の面前で刺し殺す……。そんな衝撃的な日々を経験した末、ようやくウダイのもとから逃げ出し亡命を果たしたヤヒア。今回映画のキャンペーンのために来日した彼に、ムビコレ・スタッフがインタビューを行った。

『デビルズ・ダブル −ある影武者の物語−』より (C) Filmfinance VI 2011-All Rights Reserved

──衝撃的な内容ですが、映画を見た感想は?

ヤヒア:亡命してから20年が経ちますが、見ていて本当につらかったですね。気持ちを落ち着かせるために精神安定剤を飲まなければなりませんでした。妻が横について「映画だから」と言ってくれたのですが、拷問シーンなどは特につらくて、今も背中に残る傷跡に痛みが走るような感覚がありました。

──亡命後、安心を得るまでどれくらいの時間が必要でしたか?

ヤヒア:今もぐっすり眠ることはできません。ある程度の安心を得るために、亡命後に5年ほどカウンセリングに通いましたが、いまだにトラウマは癒えません。

サダム・フセインですらウダイを持て余していました

──あまりに衝撃的過ぎる体験ゆえに映像化できなかったこともあったと聞きましたが、その内容を教えてもらえますか?

ヤヒア:今でも忘れられないのは、強姦された被害者の顔です。ウダイには強姦を実行する担当者もいたので私が強要されることはなかったのですが、その場にいて目撃することを強要されたんです。
これはウダイの心理作戦のひとつで、そのために私は今も苦しみ、最近では精神安定剤さえ効かなくなってきています。彼は「純粋な悪」そのものといった存在で、あの暴力性がどこから来るのか不思議なほどです。拷問に関する本をたくさん読み実行していましたが、どこかが病んでいたとしか思えません。

──ウダイとは学生時代の同級生でもあったそうですが、当時の彼はどんな学生だったんですか?

ヤヒア:彼は途中から転校してきて、最初の2、3週間はおとなしくしていましたが、次第に本性を現してきました。当時、彼は14歳くらいでしたが、黄色いポルシェを乗り回し、バスケットボールのコートに駐車するので誰もバスケができませんでした。また、学校は男子校だったのですが彼女を連れ込んだりもしていました。そして、彼を注意した教師はその日から姿を消しました。

──映画では父親のサダム・フセインですらウダイを持て余している風に描かれていますね。

ヤヒア:実際にサダムはウダイを持て余していました。サダムは息子の残虐行為を止めるために手を尽くしたのですが、止められなかった……。サダムは私が知っているだけでも5回はウダイを投獄しています。側近のカーメル・ハンナを殺害したときには死刑にしようとすらしましたが、ウダイの母、つまりサダムの妻がヨルダン国王を巻き込んで助命運動を行い死刑にはできませんでした。そこでサダムは、「二度とイラクに戻ってくるな」とスイスに息子を追放したのですが、ウダイはスイスでビジネスマンを殺してしまい、スイスから国外追放されイラクに戻されてしまったんです。

独裁者を作ったのは誰なのか? 西側政府なのではないでしょうか
──サダム・フセインも残虐な独裁者というイメージがありますが……。

ヤヒア:サダムには何度も会いましたが、残虐な悪人だと感じたことはありませんし、彼から危害を加えられたこともありません。だからといって彼を擁護するわけではありませんが、悪の権化のようなイメージはメディアの力も影響しているのではないでしょうか。
彼はイラクという国を作った人物でもありますし、良いこともたくさん行っている。彼の犯した一番の間違いはクエートに侵攻したことで、そのときに悪事にも手を染めたのだと思います。

───昨年、2011年は、カダフィ、オサマ・ビン・ラディン、金正日ら「独裁者」と言われた人物が相次いで亡くなりましたが、それらについてどう感じますか?

ヤヒア:サダムもアメリカから独裁者と言われていましたが、おかしなことに80年代には天使のように言われていました。なぜなら当時の彼は「西側政府の友人」だったからです。独裁者へのシンパシーは一切感じませんが、その独裁者を作ったのは誰なのかということは問いたいですね。西側政府なのではないでしょうか。
 今、アラブ系のメディアではシリアの民主化運動への弾圧のことばかり報じられています。一方、イエメンでも日々殺戮が行われているのですが、それは報じられない。つまり、シリアが反米で、イエメンが親米だからです。そして、中東で一番自由が阻害されている国はサウジアラビアですが、それが西側で議論されることはありません。なぜなら、サウジアラビアはアメリカに8800億ドルという膨大な投資を行っているからなんです。
 アメリカをはじめとした西側政府には「これ以上、あなたたちの操り人形のような独裁者たちをサポートするのはやめてほしい」と言いたいですね。

──ところで、あなたは現在アイルランドにご家族と暮らしていて娘さんもいらっしゃるそうですが、お土産を頼まれたりはしていますか?

ヤヒア:娘は10歳なのですが、お土産はハローキティのグッズです。今、彼女の人生はハローキティ一色なんです(笑)。バッグもパジャマも、すべてをハローキティで揃えているんですよ。

(text&photo=編集部)

ラティフ・ヤヒア
ラティフ・ヤヒア
らてぃふ・やひあ

1964年6月14日イラク、バクダッド生まれ。バグダッド有数の実業家の息子として何不自由なく育ったが、エリート学校に入学したことでサダム・フセインの長男、ウダイ・フセインとクラスメイトとなる。大学卒業後、当時強制であった軍隊に入隊。しかし、ウダイにより前線から呼び戻され、1987-1991年をウダイの影武者として過ごす。その後、ヨーロッパへ亡命し、作家、国際法律博士となる。

ラティフ・ヤヒア
デビルズ・ダブル −ある影武者の物語−
2012年1月13日よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズほかにて全国公開
[監督]リー・タマホリ
[原作]ラティフ・ヤヒア
[出演]ドミニク・クーパー、リュディヴィーヌ・サニエ、ラード・ラウィ、フィリップ・クァスト、ミムーン・オアイッサ、ハリド・ライス、ダール・サリム、ナセル・メマジア
[DATA]2011年/ベルギー/ギャガ/109分/R18+
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