『マイウェイ 12,000キロの真実』カン・ジェギュ監督インタビュー

『シュリ』『ブラザーフッド』でハリウッドも注目の監督が戦争大作を語る

#カン・ジェギュ

『ソルト』監督を断った。アンジーが出演するとわかっていたら受けたのですが(笑)

1928年に日本占領下の朝鮮で出会った日本人と朝鮮人の少年が、やがて大人になり、戦争に翻弄されながら数奇な運命を辿っていく姿を描いた戦争大作『マイウェイ 12,000キロの真実』。

大人になった日本人と朝鮮人の少年を、オダギリジョーとチャン・ドンゴンが演じていることも話題のこの映画で、メガホンを取っているのが、『シュリ』『ブラザーフッド』などの大作映画で知られる韓国の巨匠カン・ジェギュ監督だ。

そんな監督に本作の裏話から、日本でも人気の韓流やK-POP、さらには昨年末に亡くなった北朝鮮の金正日総書記などについて語ってもらった。

──11月に監督が来日されたときの会見で、オダギリさんが当初、出演を断っていたと明かしていました。そのオダギリさんを、どうやって口説いたのでしょう?

監督:オダギリさんが拒んでいたわけではないんですね(笑)。シナリオを見て、ここはちょっと違うんじゃないかとか、こういう風に変えたらどうですかという意見は出してくれましたが、全体のストーリーとしては特に問題もなく、細かいところを調整しながら出演していただきました。

──そのオダギリさんの演じた辰雄という役にはどんな思いを込めたのでしょう?

監督:辰雄や、夏八木勲さんが演じる彼の祖父の憲兵隊司令官が、当時の日本人全体を象徴しているわけではありません。ただ、そういう人もいたということです。この映画では、自分なりの意志や哲学を持って生きている“ある人”を描いただけで、全員を代弁しているわけではないのです。

──ファン・ビンビンさんが演じる射撃の名手は、『シュリ』でキム・ユンジンさんが演じたイ・ミョンヒョンを彷彿とさせる強い女性です。監督自身は強い女性はお好きでしょうか?

監督:個人的には強い女性は苦手です(笑)。実は数年前にハリウッド映画『ソルト』の監督の依頼があったんです。アンジェリーナ・ジョリーが出演すると知っていたら、受けていたのですが(笑)。

韓流・K-POP人気は『シュリ』の頃には想定できませんでした
──個人的には、ファン・ビンビンさんとチャン・ドンゴンさんが絡んでのラブストーリーをもう少し多く描いていれば、もっと女性ファンを取り込めたのではないかと思ったのですが。

監督:もちろん、そういう意見は多かったですし、そういうシナリオもありました。ですが、それだと二兎を追い、オダギリさんとチャン・ドンゴンさんの男性同士の絆が薄れてしまうと考えました。

──『シュリ』で来日したときに「挑戦する気持ちと絶対に最後まであきらめない気持ち、この2点を大事にしたい」と話していました。その思いは今も変わりませんか?

監督:10年経とうと、20年経とうと変わらないと思います。

カン・ジェギュ監督

──逆に『シュリ』の頃と比べて、変わった、成長したなと思う点があったら教えて下さい。

監督:『シュリ』を作っていた頃は、私1人の夢、自分がやりたいことばかりを見ていました。でも今は、日中韓やアジアの映画がどうすれば共存できるのかなど、もう少し大きな見地に立って考えるようになりました。
 例えば本作は、日本と韓国、2つの国の話です。結果的に日本からの出資を受けることはできませんでしたが、日本からの出資があれば、もっと簡単に進めることができた作品です。
 そう考えると、韓国映画が元気なだけでなく、日本映画も元気である方が、お互いに出資し合い、マーケットをシェアしながら映画を作っていく環境が整うと思います。つまり韓国の映画市場だけでなく、中国や日本の映画市場も同時に発展していく方が、お互いにとってプラスになるわけです。

──『シュリ』は現在の韓流、K-POPブームの先駆けとなったと思いますが、当時、こんな風になることを想定できたのでしょうか?

監督:もちろん、想定なんてできませんでした。

金正日総書記亡き後の北朝鮮、いつかはほかの独裁国と同じで終焉を迎えると思う
──韓流、K-POPが日本市場を席巻している理由はどこにあると思います?

監督:韓国ではドラマだろうと映画だろうと、とことんまで描き切ります。例えば、ラブストーリーや不倫ドラマなら、ドロドロになるまで描いていく。人の気持ちや感情を、表面だけに軽く触れるのではなく、とことんまで掘り下げ、人間の感情をむき出しにしていく。そこが日本の作品とは違うところではないでしょうか。
 『マイウェイ』でも、戦争の過酷さ、残酷さを、これでもかというくらい見せようとしました。なぜなら、実際の戦場は、これよりもさらに残酷だったと思うからです。ですから、観客にとっては、ちょっと重すぎる、見るに耐えないと思うかもしれません。でも、私たちはそれが現実だと思っているのです。それは短所にもなるかもしれませんが、強みでもあると思います。

カン・ジェギュ監督

──『シュリ』『ブラザーフッド』、そして『マイウェイ』と、重いテーマばかりを選んでいる理由を教えてください。

監督:『ブラザーフッド』では戦争と家族を、『マイウェイ』では戦争と友情、人間の再生を描きました。決して挫折を描きたいわけではなく、心温まるような話をしたいと思っていて、それが家族の愛や友情、夢だったりするのです。

──『シュリ』『ブラザーフッド』では南北の分断がモチーフでした。金正日総書記が亡くなりましたが、今後、南北問題はどうなっていくと思いますか?

監督:過去のことを見れば、ある程度、予測できると思います。つまり、いつかはほかの独裁国と同じで終焉を迎える、崩壊するだろうと思っています。それがいつかはわかりませんが、時間の問題だと思います。

──例えば10年後に、平和になった南北の映画を撮りたいと思いますか?

監督:『シュリ』の続編を作ろうという話があって、統一後の、南北朝鮮の混乱や激動のドラマを作りたいと思い、準備をしたことがあります。ただ、そのときはうまくいきませんでしたが。

──それは楽しみです。ぜひ、作ってください。

監督:そうですね。可能性はあると思います(笑)。

(text&photo=編集部)

カン・ジェギュ
カン・ジェギュ
かん・じぇぎゅ

1962年11月27日、韓国慶尚南道生まれ。『銀杏のベッド』(96年)で映画監督デビュー。監督・脚本を手がけた『シュリ』(96年)が韓国で観客動員500万人の大ヒット。日本でも興収18億円の大ヒットとなる。2000年には『燃ゆる月』をプロデュース。2004年にチャン・ドンゴンとウォンビン共演の『ブラザーフッド』を監督・脚本する。本作は7年ぶりの監督作となる

カン・ジェギュ
マイウェイ 12,000キロの真実
2012年1月14日より丸の内TOEIほかにて全国公開
[監督]カン・ジェギュ
[出演]オダギリジョー、チャン・ドンゴン、ファン・ビンビン、キム・イングォン、夏八木勲、鶴見辰吾、山本太郎、佐野史郎、浜田学、イ・ヨニ、ド・ジハン
[DATA]2011年/韓国/CJ Entertainment Japan 、東映/145分
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