フランス人ジャーナリスト、ドキュメンタリー映像作家。
1960年、フランスのポワトゥー=シャラント地方の農家に生まれる。ストラスブールでジャーナリズムを学んだ後、フリーランス・リポーターとして南米に渡り、コロンビア・ゲリラなどを取材。95年、臓器売買をテーマにした『Voleurs d'yeux(眼球の泥棒たち)』でアルベール・ロンドレ賞受賞。03年、アルジェリア戦争でのフランス軍による拷問や虐殺を扱った『Escadrons de la mort, l'ecole francaise(死の部隊:フランスの教え)』でFIGRA(社会ニュースレポート&ドキュメンタリー国際映画祭)優秀研究賞ほか受賞。 08年、『モンサントの不自然な食べもの』でレイチェル・カーソン賞(ノルウェー)、ドイツ環境メディア賞ほか数々の賞に輝く。また、3.11以降の福島の農家を取材し、アグロエコロジー、農業を中心とした継続的な社会をテーマにした、世界のオルタナティブ農家を追った作品を制作中。
『モンサントの不自然な食べもの』マリー=モニク・ロバン監督インタビュー
巨大企業の暴走を描き、政府をも動かした不屈の女性ジャーナリスト
『モンサントの不自然な食べもの』は、遺伝子組み換え作物(GMO)にまつわる様々なウソや不正、危険性を訴えるドキュメンタリー映画だ。タイトルにあるモンサントとは、GMOの世界シェア90%を握るモンサント社のこと。世界で最も売れた除草剤「ラウンドアップ」で知られ、世界46ヵ国に進出している多国籍バイオ化学メーカーで、徹底的な利潤追求をモットーとしている。
自分たちに不利をもたらす人々には怪文書を使ってでも徹底的につぶそうとし、立ち向かってくる科学者やジャーナリストは札束で黙らせる、もしくは裁判で疲弊させる。あからさまな暴力を使わないのでその怖ろしさは見えにくいが、映画を見ながら、もしかしたら独裁国家よりも質が悪いのではないかとさえ思ってしまう。
そんなモンサント社が進める危険な計画をあぶりだしたのは、ジャーナリストでありドキュメンタリー映像作家でもあるフランス人女性マリー=モニク・ロバン。恐怖を感じながらこの映画を作ったという彼女に話を聞いた。
──利潤の追求は株式会社としては「あるべき姿」だとは思いますが、モンサント社の利潤追求の姿勢は「暴走」としか思えず、映画を見ていて背筋が凍るような気持ちになりました。このような巨大企業の暴走を食い止めるには、どうしたらいいのでしょうか?
監督:巨大多国籍企業の暴走は今の経済システムの問題点です。その代表格としてモンサント社を取り上げました。大企業の犯罪的な利潤追求は世界中に蔓延していますが、「彼ら」は自分たちがしてきたことの責任を取りません。損害賠償を訴えることはできても、上層部を刑事訴訟することはできないのです。私たちは「環境に対する犯罪」という枠組みを作らなければいけないのだと思います。
モンサント社などの活動については透明性がなく、情報開示がなされていないのも問題です。その原因のひとつは「回転ドア」のシステムにあります。ビジネス界のリーダーたちが行政の場に移り、行政側の人たちがビジネス界に移動するという、まるで回転ドアがグルグル回るような感じで人々がビジネスと行政とを行き来し、癒着するシステムです。これは民主主義の根幹にも関わってくることで、彼らを制御するのは困難です。
監督:1994年に発効されたアメリカ・カナダ・メキシコの3ヵ国によるNAFTA(北米自由貿易協定)により、メキシコ経済は多大なる悪影響を受けました。モンサントの遺伝子組み換えトウモロコシは手厚い補助金制度のおかげで生産費を19%も下回る安値で市場に出回り、このダンピングにより、メキシコでは300万人もの小規模農家が廃業に追い込まれました。
TPPへの参加によって日本の農業、食品の品質がどう変化するのか考えてもらいたいと思います。どう考えても、TPPへの参加は、食糧供給において日本がアメリカへの依存を深めることになるのは明らかです。
監督:ええ、そうです。NAFTAが結ばれたのは誰のためでしょう? 多国籍企業のためなんです。「自由貿易」と言いつつ、まったく自由ではない。NAFTAが締結される前、メキシコは食料に関して自給自足の国でしたが、現在では食料の40%以上を輸入に頼っていて、2008年にはメキシコ史上初めての飢餓暴動が起きました。カールギルやモンサントといった巨大企業が投機を通じてトウモロコシの流通を牛耳ってしまったためです。
監督:実は、分からないんです。モンサントは巧妙に政府に働きかけ、GMO食品を食べたらどうなるかというテストを回避したんです。ラットを使った28日間のテストはあるけれど、これで何が分かるでしょう。フリーランスの独立した科学者がもっと調べようとすると、みな、職を失ったり仕事から外されてしまうんです。もし、人体に影響がないことをモンサント社が確信していたら、優秀な科学者を雇って、もっと長期スパンで調べたはずです。それで安全性が分かれば、彼らにとっても得ですから。でも、なぜ彼らは調べなかったのでしょうか?
アメリカでは人々は15年間もGMOを食べ続けています。それについてのモニタリングはまったくされてず、作物や油など、いろいろな形で摂取し続けられているので、今では何がどういうい影響を与えているのかが分からないでしょう。それはモンサント社にとってはとても好都合なんです。ただ、アメリカではアレルギー患者が増えています。
監督:メキシコではGMOの栽培は禁止されているのですが、密売によりGMOが育てられているという疑惑があります。そして、そこにモンサント社がかかわっている可能性が高いんです。モンサント社は、そうして自然交配を仕掛け、ある日「特許化されている(我が社の)GMOの種子があなたの畑で見つかりましたよ」と言ってきて、特許料を請求するんです。大豆については、すでにパラグアイやブラジルで同様のことが行われています。
トウモロコシや菜種の花粉は飛散距離が長いので、小麦などと比べて自然交配しやすいんです。
監督:モンサント社の動きは分かりませんが、もしGMOの米が出てきたら、パラグアイやブラジル、メキシコと同じことが起こるでしょう。
日本では米作に関しては関税をかけるなどの保護政策がありますよね。農業を守るためには保護主義は必要だと思います。
監督:栽培する植物にもよりますが、例えば菜種の場合、15年〜20年、種子が土壌のなかで生きつづけます。カナダは菜種の生産国で、すでにGMOがはびこっているのですが、カナダの場合、科学者が言うには、700万ヘクタールの菜種をすべて抜き、20年間待たなければいけません。つまり、GMOを取り入れるということは、その年限りのことではなく、将来に渡る決断をするということなのだと知ってください。
かつてヨーロッパの国会でGMOの栽培を許可するかどうかという討論がありました。花粉の飛散を防ぐため、植えるとしたらどれくらいの距離が必要かが議論されました。20mなのか700mなのか……でも、農業を知っていれば机上の空論だと分かります。フランスではその議論がなされていたときにこの映画が公開され、国会で栽培が否決されました。私は議員から電話をもらい「ありがとう。こんなことは今まで知らなかった」と言われました。
──モンサント社は日本にも支社を作り、厚生労働省や農林水産省などに遺伝子組み換え作物の認可を着々と働きかけていますが、あまりニュースなどで報じられず、人々がその危険性を知ることは少ないのが現状です。フランスではどうでしょうか?
監督:私はモンサント社についての本も出していますが(日本未発売)、この映画や本を出すまでは、フランスでもモンサント社について知る人は少なかったんです。でも、今ではみんなモンサント社について語るようになり、ル・モンド紙にも(モンサント社についての)記事が出るようになりました。私はインターネットに散らばっていた情報をまとめたのですが、インターネットの役割はとても大きいと思います。
ヨーロッパではスペインをのぞいてGMOは栽培されていませんが、この映画もそれに貢献していると思います。巨大な力を持った多国籍企業に対しては、独立した情報が重要ですよね。
監督:GMOの入っている食品をすべてボイコットすることです。また、有機作物を、流通を通さず、直接農家から購入することも有効だと思います。
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