『トゥ・ザ・ワンダー』オルガ・キュリレンコ インタビュー

“ボンドガール”が語る愛の苦悩とは?

#オルガ・キュリレンコ

テレンス・マリック監督は“その瞬間”の反応を俳優に求めている

40年を超えるキャリアで手がけた作品は6本と大変な寡作ながらも、その才能が高く評価されているテレンス・マリック監督。彼の最新作が、“愛のうつろい”をテーマにした『トゥ・ザ・ワンダー』だ。

フランスのモンサンミッシェルで始まったニールとマリーナとの愛。だが、アメリカへと渡り時が経つなかで情熱は失われ、愛は他へと移っていく。そんな残酷で切ない愛の真実が美しい映像のなかに描き出されていく。

主人公のアメリカ人ニールを演じたのは『アルゴ』(12年)でアカデミー賞作品賞を受賞したベン・アフレック。マリーナを、『007/慰めの報酬』(08年)のボンドガールでブレイクしたオルガ・キュリレンコが演じている。うつろいゆく愛に苦悩するヒロインを演じたキュリレンコに、映画について語ってもらった。

──本作は、シナリオのようなものはないというお話ですが、マリーナの役作りなどはどのように行ったのですか?

キュリレンコ:シナリオはなかったわ。私がもらったのは、全てテリー(テレンス・マリック監督)が口頭で伝えたものだけ。彼は俳優一人ひとりと、とても長い時間話をするの。普通とは異なるプロセスね。シナリオはないし、メモを手に「今日はどんな演技をしようか?」なんて考えながら歩き回ったりはしないの。自分の思うがままに演じるだけなの。
 だって私は私という人間で、今の私があるのは、それまでの経験とか人格形成の過程があるからで、決められたシステムに従っているわけじゃない。そうやってキャラクターに接することを、テリーは俳優に求めているのよ。彼がシナリオを与えないのは、事前に用意されたもので俳優に演技してほしくないから。私たちにスポンジみたいに吸収させて、その人物に仕立て上げるの。だから一旦始まると、私がマリーナとしてやることは、全てマリーナの真実だし、私は彼女だから、私がやることは全て正しいのよ。でもそれは自然発生的でリアルだわ。あらかじめ考えて決めたアイディアを、彼は求めてないの。その瞬間の反応を俳優に求めているのよ。計画済みのものではなくてね。

──撮影現場では、キャラクターとして過ごさなければならないのですか?

キュリレンコ:ええ、そうよ。朝、目がさめてからベッドに戻るまでずっとね。場合によっては、眠っている間もマリーナだったりしたわ(笑)。

恋愛のあり方は人それぞれで、ひとつひとつ異なっている
『トゥ・ザ・ワンダー』
(C) 2012 REDBUD PICTURES, LLC

──撮影が終わってから、そのキャラクターを脱ぎ捨てるのは大変ではなかったですか?

キュリレンコ:そう、大変だったわ。撮影が終わってもしばらくの間私はマリーナだったから、かなり怖かったわ。というのも私の意見だけど、彼女は世界で一番精神の安定している人ってわけではなかったから。あの時は、本当にひどく心が乱れて不安定になっていたの。
 だから私はあのキャラクターから抜け出そうと努力したわ。だって彼女は私のなかに入り込んでしまったから。キャラクターと自分がごっちゃになってしまったの。あまりにも役に入り込んでしまったけれど、しばらくしてから振り払うことができたわ。

──監督とは映画のテーマについてどんな話しをしたんですか?
『トゥ・ザ・ワンダー』
(C) 2012 REDBUD PICTURES, LLC

キュリレンコ:テリーは、この物語は愛について、そして信念について描いた作品だと話してくれたわ。実際、私たちはいろいろ信念について話したし、信仰心や(ドストエフスキーの)「カラマーゾフの兄弟」に出てくるゾシマ神父についても、たくさん話をしたの。それと他にもいろいろ本を読まなければならなかったわ。(ドストエフスキーの)「白痴」や(トルストイの)「アンナ・カレーニナ」とか。どの本にも、それぞれ異なる事柄が書かれていて、それはテリーが私に掘り下げてほしいと思うことだったの。でも彼はとにかく信念についてたくさん話してくれて、役作りのために教会に行くように言ったわ。なぜならマリーナは宗教的で、テリーによれば、しょっちゅう教会に行くようなタイプなの。教会ではたくさんのシーンが撮られて、そこでマリーナはハビエル・バルデム演じる神父に懺悔をするのだけれど、映画のファイナル・カットには残らなかったわ。私のキャラクターはこうした懺悔を延々続けていくけれど、それは自分が純真になりたくて、でもまだ善き人になれていないと感じているからなの。それで自分は汚れていて、罪びとだから赦しを求めに来るのよ。

──本作で描かれた愛の真実についてどう思いますか?

キュリレンコ:これは最高に幸せなラブストーリーを描いているわけではないわ。けれど真実を反映したものでもあるわ。恋愛のあり方は人それぞれで、ひとつひとつ異なっている。テリーは「恋愛というものはこれこれこうだ」と言おうとしてるわけではないわ。ここではある特定のケースを描いている。でもひょっとしたら、彼の知っている話からインスパイアされたのかもしれない。
 この物語は色々な形の愛を見せているし、とても広義な意味での愛について語っているわ。そして愛とは一体何なのかと問いかけていると思うの。それは義務なのか快楽なのか? それとも必要不可欠なもの? 自己破壊? 真実を学び人生を送るためには、多くの苦痛を切り抜けなければならないときもあるわ。これは辛いやり方で愛について知る話よ。でもそうやってヒトは学んでいくと思うの。もし楽な人生を送っていると、真に学べないこともあるわ。ときには苦しまないと学べないのよ。

『トゥ・ザ・ワンダー』
(C) 2012 REDBUD PICTURES, LLC

──フィルムメーカーとして、また一個人としてテレンス・マリックはどんな人物ですか?

キュリレンコ:彼は素晴らしい映画監督だけれど、素晴らしい人間でもあるわ。親切で寛容で思慮深くて、とても知的な人。人の真実を見ているし、深遠な事柄にだけ関心があって表面的なことには全然関心がないわ。相手が何をしてるか、どんな地位にあるかなんて気にしないの。その人の中身が全てなのよ。それってとても誠実でとても美しいことだけれど、最近では滅多にないことだと思うわ。あと、彼と話すのはとても楽しい。セットではジョークばかり言って笑ってばかりで、とても親しくなれたわ。本当に彼のことは大好きよ。
 私はこの映画を心の底から楽しんだ。素晴らしい時間を過ごせたし、できるものならもう一度やりたいわ。テリーと仕事をすると、俳優としてとても大きく成長するの。テリーに会えてこの映画に出るチャンスをもらえて、本当に感謝しているわ。

オルガ・キュリレンコ
オルガ・キュリレンコ
Olga Kurylenko

1979年11月14日生まれ、ウクライナ生まれ。16歳でパリに渡りトップモデルとして活躍。『薬指の標本』(04年)で映画デビュー。『パリ、ジュテーム』(06年)、『マックス・ペイン』(08年)などへの出演を経て、『007/慰めの報酬』(08年)ではボンドガールに抜擢され、ほとんどスタントなしで熱演。その他の出演作は『オブリビオン』(13年)、『セブン・サイコパス』(12年)など。

オルガ・キュリレンコ
トゥ・ザ・ワンダー
2013年8月9日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開
[監督・脚本]テレンス・マリック
[出演]ベン・アフレック、オルガ・キュリレンコ、レイチェル・マクアダムス、ハビエル・バルデム、タチアナ・チリン、ロミーナ・モンデロ、トニー・オーガンズ
[原題]TO THE WONDER
[DATA]2012年/アメリカ/ロングライド/112分

(C) 2012 REDBUD PICTURES, LLC