1974年、アメリカのテキサス州に生まれる。ハーバード大学とロンドン芸術大学に学ぶ。政治的な暴力と想像力との関係を研究するため、民兵や暗殺部隊、そしてその犠牲者たちを取材してきた。これまで『THE GLOBALIZATION TAPES』(03年、共同監督)、『THE ENTIRE HISTORY OF THE LOUISIANA PURCHASE』(98年)、『THESE PLACES WE'VE LEARNED TO CALL HOME』(96年)などを手がける。イギリス芸術人権研究評議会のジェノサイド・アンド・ジャンル・プロジェクトの上級研究員。
『アクト・オブ・キリング』ジョシュア・オッペンハイマー監督インタビュー
虐殺シーンを加害者本人が演じる前代未聞の作品について語る
大量虐殺を行った本人にその行為を演じさせるという前代未聞の手法で作られたドキュメンタリー映画が、世界各国で大絶賛されている。ナショナル・ボード・オブ・レビュー、シカゴ映画批評家協会賞、トロント映画批評家協会賞など名だたる映画賞を受賞しドキュメンタリーの概念を超えたとまで言われているその作品は、4月12日より公開された『アクト・オブ・キリング』だ。
文字通り「殺人を演じた」この映画の舞台となるのはインドネシア。この国では1960年代に密かに100万人規模の大虐殺が行われていたという。実行者は軍人ではなく民間のやくざや民兵たちで、信じがたいことだが、彼らは今も国民的英雄と称えられ豊かな人生を謳歌しているのだ。
アメリカ人監督のジョシュア・オッペンハイマーは当初、虐殺被害者を取材していたが、当局から被害者への接触を禁じられたことから加害者への取材に変更。だが虐殺行為を嬉々として語り再現してみせる彼らに驚いたのか、あるとき「あなたたち自身で虐殺行為を演じてみては?」と提案したという。最初はスター気取りだった“虐殺者”だったが、その“演技”は彼らに変化をもたらしていく様子がスリリングだ。
ハーバード大学とロンドン芸術大学に学び、政治的暴力と想像力との関係を研究。民兵や暗殺部隊、その犠牲者たちを取材し続けてきたオッペンハイマー監督に、本作について語ってもらった。
監督:最初は虐殺を生き延びた被害者たちの映画を作っていたんです。被害者たちは今も恐怖を感じ続けています。なぜなら加害者たちが今も生きていて、同じ事がいつ起こってもおかしくない状況だからです。そういうなかで生きていくことはどんなものなのかを描きたかった。けれど、撮影を始めるや軍から脅迫を受け、製作を中止せざるをえなくなりました。そのとき、被害者から「では、帰国する前に加害者を取材してみてほしい」と言われたんです。
加害者への取材は危険かもしれないと思ったのですが、彼らは恐ろしいディテールを楽しげに笑顔で答えてくれたんです。家族の前で語ることもありました。それはまるで、ホロコーストから40年後のドイツに足を運んだら、まだナチスが権力をふるっていた──というような感じでした。こうして撮影した素材を被害者や人権団体のスタッフに見せたところ、誰もが「撮影を続けて欲しい。これは何か、とても大事なものだ」と言ったんです。
監督:彼らの身に危険が及ぶかもしれないからです。彼らは、大学教授、記者、人権団体のリーダーでしたが、自分のキャリアを犠牲にしてまで、8年間という時間をこの作品のために費やしてくれました。しかも、この国に本当の意味での変化が起こらない限りは自分の名前は明かせないという覚悟の上のことでした。ですから、作品について語るときに、私の隣に共同監督がいないことはとても悲しいことなんです。
監督:ノミネートをきっかけに、インドネシア政府は、65年の虐殺は間違いだったと初めて公式に認めました。また、大統領のスポークスマンが、この映画に出てくるような人々──民兵や青年団のリーダーたちを嫌悪すると言いました。マスコミでも彼らと政治との癒着が取り上げられるようにもなりましたが、実は個人名はほとんど出てきません。これは、それぞれの政治家につながっているチンピラたちを恐れているからでしょう。
監督:法的な観点から言えば、罪に問われることはありません。国連が追求することもできるはずですが、虐殺に関与した政権を支持してきたアメリカやイギリスなどの西洋諸国が名乗り出る必要があるので、難しいでしょう。私は、(虐殺を黙認した)西側諸国がきちんと責任を負うべきだと考えていて、日本も例外ではありません。虐殺当時の政権を支援し、その後のスハルト政権を支持してきた日本は、きちんと関与を見つめる必要があるのではないでしょうか。
監督:劇中劇が1本の作品として存在するということはありませんし、加害者たちも、撮影しているシーンがドキュメンタリーの一部に使われるということは最初から分かっていました。演出という意味では、私は特に何もしていません。思った通りに自分たちの“殺人”を演じてみてくださいとお願いしただけです。
監督:1200時間の素材がありました。
監督:41番目に取材したアンワル(1000人近くを虐殺)には、作品が出来上がったら見てほしいとずっと伝えていましたが、怖じ気づいてしまいました。そのうち私自身がインドネシアに入国することが危険な状態になってしまったので、スカイプを通じて彼のための試写を行いました。映画を見た彼はとても感情的になり、終了後、20分間沈黙していました。その後、バスルームへ行って戻ってきた彼は「自分であることがどういうことかが分かる映画だ」と言いました。そして、「自分のしたことをただ描くのではなく、そのことの意味が描かれていてとてもホッとしている」とも。痛みを伴う経験ではあったけれど、彼のなかでは少し安堵する何かが感じられたのではないかと思います。その様子を見た私は、まるで彼の闇を一緒に見ているようでした。
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