1965年インド・ムンバイ生まれ。父が映画監督・プロデューサーで、子役として映画デビューした後、1988年の初主演作『破滅から破滅へ』で脚光を浴びる。2001年の製作・出演作『ラガーン』および2006年『黄色に塗れ』がアカデミー賞外国語映画賞候補となり、国際的にも注目を集める。2007年、『Taare Zameen Par(原題)』で監督デビュー。44歳にして大学生を演じた『きっと、うまくいく』(09)は日本でも大ヒットした。社会問題にも強い関心を持ち、2011年にヒラリー・クリントンとインドの教育問題についてのシンポジウムで対談、2013年にはビル・ゲイツのラブコールで対談が実現するなど、映画界に留まらない活躍をしている。
2013年末の公開後、インドの歴代興収No.1記録を塗り替え、アメリカやイギリス、中国などでも大ヒットとなった『チェイス!』。サーカスのスターにして腕利きの金庫破りという男の知られざる過去と復讐を描くサスペンス・アクションはアメリカのシカゴで大規模なロケを行い、ハリウッド仕込みのアクションとインド映画ならではのダンスシーンもふんだんに盛り込んだ究極のエンターテインメント作品だ。
この映画で幾つもの顔を持つ天才トリックスターの主人公・サーヒルを演じたインドの国宝級名優、アーミル・カーンに話を聞いた。
アーミル・カーン(以下AK):私のなかにある子ども心を刺激されたんです。とてもエキサイティングな物語で、アクション満載。スピード感があって、スタントやサーカス、音楽、ダンスといった要素やサプライズもあります。そしてワクワクさせるのと同時に、とても感動的な物語でもある。エモーショナルなものが基盤にあること、そこにも惹きつけられました。
AK:いえ、実はそうじゃないんです。これは『Dhoom(原題)』というシリーズものの第3作にあたりますが、このシリーズでは刑事2人と対決する悪役こそが主役なんです。刑事たちはシリーズを通してアビシェーク・バッチャンとウダイ・チョープラーが演じていますが、悪役は毎回変わる。だから、僕が『チェイス!』に出演すると発表された時点で、インドの観客は僕がどんな悪役を演じるのかを楽しみにしていました(笑)。
AK:このシリーズは基本的に刑事と泥棒の追跡劇を描く娯楽作ですが、今回は初めて、とても感情に訴える物語になりました。僕が演じた役はとても複雑なんです。日本のみなさんのためにネタバレしないように気をつけて言わせてもらうと、怒りや復讐心あふれる破壊的な面と、無垢で夢見がちで恋する心もある。役者として、二面性に満ちた人物を演じたのは素晴らしい挑戦になりました。
AK:プロデューサーはすぐにでも撮影を始めたかったようですが、私は「いや、1年かけて準備したい」と言いました。サーカスのパフォーマーを演じるのだから、そのための身体作りが必要でした。
彼らは特徴的な体をしています。筋肉質で体脂肪率はとても低い。そこでアメリカからトレーナーを呼んで、2年間彼の特訓を受けました。準備のための1年、そして撮影期間中の1年です。彼からは基本的な動きや倒立、ジャグリングも教わりました。並行して厳しいダイエットも行ったので、かなりつらい2年間でした。肉体より、むしろ精神を鍛えなければならなかったですね。大変でしたが、楽しかったです。
サーカス演技については、(アーリア役の)カトリーナ・カイフと一緒にヨーロッパから来てもらったサーカス・アーティストに習いました。1ヵ月ほどでしたが、幸いカトリーナも僕も以前から体を鍛えていたので、サーカス演技に必要な筋肉や体幹が備わっていました。彼女をリフトするときに震えたりしてはダメですから。普段から鍛えておいてよかった。
AK:はい。タップ・ドッグス(2000年のシドニーオリンピック開会式でパフォーマンスを行った)のデイン&シェルドン・ペリー兄弟に習いました。タップのシーンがあると知ったときはうれしかった。以前から好きだったんです。ジーン・ケリーやフレッド・アステアの映画を見ていましたから。だから、優雅で軽やかなイメージを抱いていたのですが、タップダンスというものがあのハリウッドの黄金時代から大きく変わっていたとは知らなかった(笑)。
現代のタップダンスはとても攻撃的なんです。ドンと響くような音を立てるし、速い。どういうものが求められているのかわかったときは『できない。これじゃ難しすぎる』と、ちょっと怖くなりました。でも、せめてトライだけはしようと思ったんです。たった45日間しかありませんでした。まず15日間、ボンベイで練習して、それからシドニーで1ヵ月間練習しました。やってみたら、これもすごく楽しかった。新しいことを学ぶのは大変だけど、大きな楽しみがあるものです。
AK:そうなんです。最初のクラスメートは4、5歳児ばかりでした。子どもたちの方が僕よりずっと上手かった(笑)。
AK:彼らとの仕事は素晴らしい経験になりました。スタントマンは全員アメリカ人でしたし、ほかのパートにも参加してもらって、スタッフの半数はアメリカ人でした。シカゴは美しい街でした。市や警察の協力を得て、大規模な交通規制をしてカーチェイスのシーンも撮れました。
AK:私は自分については“人間”だと思っています。インドはさまざまな問題を抱えていて、不平等な面もたくさんあります。新聞を開くと、つらい気持ちになってしまう。そんな状況をただ静観しているのはイヤなんです。そこで、3、4年前からテレビ番組を始めました。社会問題について理解し、どう解決していくか。人の心に触れることが僕の能力だとしたら、それを使いたいと思ったんです。僕はインドの人々からとても愛されている。とても恵まれていて、感謝の気持ちでいっぱいです。そのお返しをしたかった。人間として反応した結果です。
AK:その称号はうれしいですね。でも自分が完ぺきだとは思いません。完ぺきな人間なんていないと思います。誰にも強さと弱さがあり、その不完全さゆえに私たち人間は美しい。僕はそう信じています。インドのメディアからは“ミスター完ぺき主義”と呼ばれたりもしますが、インドでは俳優にいろいろなレッテルを貼りたがるんです。俳優の方もアクションばかり、ロマンティックな作品ばかり、と同じ役をやりたがる傾向がある。でも僕はこの15年間、違うものに挑戦し続け、成功を収めてきました。だから、彼らは“ミスター完ぺき主義”なんて呼ぶのかもしれません。でも僕自身は笑うしかない。だって完ぺきな人間はいないんですから。
(text 冨永由紀)
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