1952年5月21日生まれ、神奈川県出身。日活ロマンポルノ監督を経て、『マリリンに逢いたい』を監督。アメリカ映画 『イン・ザ・スープ』を製作。その後、米国に移住し日系アメリカ人の歴史を綴った日米合作3部作映画、『東洋宮武が覗いた時代』(08年)、『442日系部隊・アメリカ史上最強の陸軍』(10年)、『二つの祖国で 日系陸軍情報部』(12年)を企画、脚本、監督。マウイ映画祭観客特別賞、山路ふみ子賞文化賞、日本映画批評家大賞を受賞。『父は家元』ではプロデューサーとして作品に携わる。『和食ドリーム』と同時期に監督作『宮古島トライアスロン』も公開。
世界文化遺産にも登録され、今や世界中で人気の高まっている和食。和食がここまで知られるようになった陰には、1人の日本人の存在があった。その人の名は金井紀年(かない・のりとし)氏。日本食の可能性を信じ、約50年前に家族を引き連れて渡米。貿易を通じて和食の普及につとめ、ブームの礎を形作った。
『和食ドリーム』は、金井氏を主軸にアメリカでの和食の歴史を紐解きながら、その素晴らしさと未来を描いたドキュメンタリーだ。
本作を手がけたのは、日系アメリカ人の歴史を綴った日米合作三部作、『東洋宮武が覗いた時代』『442 日系部隊・アメリカ史上最強の陸軍』『二つの祖国で 日系陸軍情報部』を手がけ、マウイ映画祭観客特別賞や日本映画批評家大賞などを受賞した気鋭監督、すずきじゅんいち。アメリカに暮らした経験から日本の良さを客観的に認識したというすずき監督に、映画の見どころなどを語ってもらった。
──「寿司バー」という言葉は金井さんが生み出した言葉だそうで、彼なくしては今の和食ブームはありえません。私は不覚にも初めてお名前を知ったのですが、これほどの方が日本ではほぼ無名ということに驚きました。
監督:僕はアメリカに丸11年住んでいたので、金井さんのことは知っていましたが、裏方ですからね。食品の貿易に携わる方なので。寿司バーという名前の発案もそうですが、アイデア師だと思います。(和食がまだまったく知られていない昔のアメリカに)寿司職人を連れてきて、お金がない場合には開店資金まで協力したりしてあげていたそうです。ただ、彼はビジネスマンなので、本業を一生懸命やってきただけなんだと思います。
監督:私は2012年に日本に戻ったのですが、その後アメリカに行った時に久々に金井さんにお会いして、もう少しその存在が知られてもいいのではないかと思ったんです。それに、91歳という年齢を考えると、お元気なうちに映像に残しておくべきなのではないかとも考えました。ただ、金井さんだけの話では映画化は難しいかもしれませんが、たまたま和食が世界遺産になったこともあり、「和食」というテーマだったら映画としても成立するのではないかと思ったんです。
監督:「どうぞ」という感じでした。もう91歳なので、会話の途中で寝てしまわれることもありますし(笑)、あまり細かいことは言わない方ですので。でもお仕事では、今でも世界中を股にかけて精力的に活躍されているんですけど。
監督:そうですね。戦争を経験してきた人たちというのは本当に強いと思います。戦争を生き延びた人たちというのは運や要領の良さも含めての強さを持っています。そういう人たちが和食を広めてくれた。最初は本当に大変だったそうです。金井さんも、アメリカでは数名で事業を始め、重い荷物を自ら抱えて運んだり、営業でも苦労した。本当にハードな仕事で、子どもと遊ぶ暇もなかったそうです。
監督:未来形を描きたかったんです。ヨーロッパ、アジアも含め、今、和食がどんどん広がって行っています。日本では和食は衰退していると感じるのですが、和食の素晴らしさ、良さを描くことで、日本での衰退もなんとかなるんじゃないかと…。「ドリーム」という言葉には、未来に向けての願いというか、思い、前向きなメッセージを込めました。
監督:米離れというのも大きいと思います。(米を原料とした)日本酒も、欧米では人気が高まっていますが、日本では衰退していますよね。日本人の特性だと思いますが、日本のものより海外のものを喜ぶというのがあると思います。和食の良さをきちんと知ろうとせず、新しいものに飛びついていってしまうような部分があると思うので、和食の良さを知れば、もう一度復活するんじゃないかと思うんです。
また、家庭での食文化が衰退している影響もあると思います。そもそも家庭自体が崩壊しているような部分もありますよね。家庭と言っても、昔とは意味が違ってきていると思いますし。和食の原点は「我が家の食事」。家庭での食事は、家族があってこそですから。
(テレビなどで)美味しそうなお店を知るだけではなく、植物や動物を殺してそれを食うことの悲しみや残酷さも含めて、和食の良さ、素晴らしさを見つめ直してほしいですね。
監督:圧倒的な有望株ですよね。これからどんどん世界に広がると思います。見てきれいだし、食べて美味しいし、何より健康的ですよね。世界中でお金持ちに(和食が)広がっている一番の要素は健康的だから。お金持ちに広がると、一般庶民も「食べてみよう」となってくる。フランス料理や中国料理にも負けない良さ、美味しさがあると思うので、これからもっと世界に広がっていくと思います。
監督:日本ほど四季がハッキリとある国はない。しかも非常に自然が豊か。世界的にこんなに恵まれた国はないと思います。この四季と豊かさが和食を生んだんだと思います。海外の知人たちは、日本の清潔さをほめますね。素晴らしい国だと思います。
監督:そうだと思いますよ。日本には素晴らしいところがたくさんあるのに、今まで日本人には、外国人には分かって貰えないという先入観がありすぎました。今こそ日本の良さを見つめ直す必要があると思います。
監督:ヘンな和食は腐るほどありますよね。映画の中でも少し出しましたが、そういう不愉快な部分を描くことは、観客に不快感を与えてしまうので、あえて詳細には描きませんでした。「ドリーム」のほうをメインにしました。
ドキュメンタリーって、メッセージを前面に押し出してしまう人が多いのですが、僕はそうではなく、「こういう現実がありますよ」という描き方をしたい。あえて台本を作らず、撮ってきた中で面白いところをつないでいく。最初に構成台本があると簡単なんですけど。僕のやり方は、手間暇もお金もかかります。
とにかく色々語ってもらって、後でチョイスする。『442 日系部隊』のときには編集が終わってから、「やはり戦争後遺症の話を入れなければいけないな」と考えて、その研究をしているお医者さんをハワイから呼んだんです。(予算がないので)タダで来てくれって言って(笑)。ホテル代は出しましたが、飛行機代は出さなかった。でも、来てくれましたよ。
自分の主張を描くのでも、予定調和でもないものが作りたいと思っています。僕は日活の撮影所で育ったので、「お客のことを考えろ」と叩き込まれました。ですから、ドキュメンタリーにもエンターテインメントの要素を入れることを考えるんです。
監督:そういうわけではないのですが、いい加減なので、面白いと思ったものを映画にしちゃうだけです。だから映画評論家から「あいつは節操がない」と言われちゃったりするんですけど(笑)。
監督:今は劇映画を久しぶりに撮っています。僕は昔、青年海外協力隊員だったのですが、今年が創設50周年なんです。それを記念して作る娯楽教養作品です。
監督:両方やると、それぞれの良さが分かりますね。劇映画の良さは、やはり俳優を撮ることに尽きます。役者の華やかさを撮るのも、面白いですよね。
監督:最近は日本人が内向きになり過ぎちゃっているのが心配です。とても良い国なので、若い人がわざわざ苦労して海外に行きたくないというのは分かりますが、それでは考えが広がらないですよね。世界の視点から日本を見つめると、日本の良さがもっと分かると思います。
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