1940年11月22日生まれ、アメリカ・ミネソタ州出身。1960年代にイギリス・ロンドンに移住し、その後、コメディグループ「モンティ・パイソン」のメンバーとなり、得意のアニメで貢献。その後、テリー・ジョーンズと共同で『モンティ・パイソン・アンド・ホーリーグレイル』(75年)を監督。『モンティ・パイソン/ライフ・オブ・ブライアン』(79年)ではプロダクション・デザイナーをつとめ、さらに俳優、脚本家、そしてアニメーターとしても参加。85年には、『未来世紀ブラジル』でL.A.批評家協会の最優秀作品賞を受賞。アカデミー賞では脚本賞と美術賞の2部門にノミネートされた。その他、『バロン』(88年)、『フィッシャー・キング』(91年)、『12モンキーズ』(95年)、『ラスベガスをやっつけろ』(98年)などを監督。2000年にはスペインで『ドン・キホーテを殺した男(The Man Who Killed Don Quixote)』の製作を始めるが、過酷な天候と主演俳優の怪我により撮影は中断される。このときの様子を収めたのがドキュメンタリー映画『ロスト・イン・ラ・マンチャ』(01年)である。その後、マット・デイモンとヒース・レジャーを主演に迎え、グリム童話の誕生の謎を描いたエンターテインメント超大作『ブラザーズ・グリム』(05年)を発表、世界的に大ヒットした。
熱狂的ファンをもつイギリスのコメディグループ「モンティ・パイソン」メンバーにして、『未来世紀ブラジル』『ブラザーズ・グリム』など斬新な作品を作り続けてきた鬼才テリー・ギリアム監督。その最新作が、人生の愛の真実に迫った近未来ドラマ『ゼロの未来』だ。
「ゼロ」の秘密を解き明かすことにすべてを捧げた天才プログラマーを主人公に、人生、そして幸せの意味を問い、知的好奇心を刺激するエンターテインメント作品について、ギリアム監督が語った。
監督:『ゼロの未来』を説明するのは本当に難しい。「無(nothing)」であると同時に「すべて(everything)」だからだ。とても日本的なアイディアだよね。現代の世界に生きる1人の男が、(インターネットなどで)非常に繋がっている世界から孤立しようとしている。人生の意味を教えてくれる1本の電話を受けるためにね。愚かな考えだ。映画のことじゃないよ、この男のことだ(笑)。現代と過去と未来がすべて同時に交錯しているという、我々が生きているこの奇妙な世界に折り合いをつけ、受け入れようとしている男についての物語なんだ。
監督:映画の冒頭で、主人公はチャペルに住んでいる。とても静かで管理された廃墟と化したチャペルに。彼が仕事に行くときに玄関の扉を開けると、現代世界のすべてのエネルギーやノイズやビジョンが飛び込んでくる。私が初めて日本を訪れたときに、とても西洋化された帝国ホテルに宿泊し、その後、秋葉原に行ったんだ。秋葉原駅で電車を一歩降りると、騒音や映像やダンスしている姿や洗濯機やタイプライターや踊っている人の姿が目や耳に入ってきて、頭が変になりそうだったね。疲れ果ててホテルに戻ったんだけど、あんなカルチャーショックを受けたのは生まれて初めてだった。『ゼロの未来』のオープニング・シークエンスは、私の秋葉原体験そのものなんだ。
監督:日本は奇妙でミステリアスだね。伝統的な静的な部分があり、例えば筆さばきひとつとっても最初から最後まで正確で美しい。伝統工芸も、崇高でパーフェクトで、長年に渡って生き続けている。一方、現代の日本はクレイジーだ。狂ってるよ。みんな色んな方向に走ってるし、電飾とか照明の色もそうだし、人々はひたすら動き回ってるし。私が好きな日本の側面は、分裂病的なところだね。二つの世界が混在しているんだ。一つは西洋、もう一つは伝統的な東洋が。この二つの世界が戦いぶつかり合うことで、そのような大きな驚きを生み出すんだ。そういう部分が大好きだよ。映画のプロモーションで東京に行き、あるエネルギーを感じるのも好きだ。それから、2、3日京都に行きたいって言って、比叡山に行ったんだ。穏やかな山の中を歩いたよ。世界で最も美しい場所の一つだと思ったね。そういう二つの世界が融合されているのが本当に興味深い。あと、日本人は地球上の誰よりも最も魅力的で私的な秘密の世界を持っていると思う。私には絶対に理解できないようなね。日本人は地球上の誰よりもファンタジー(空想)を抱いているんだ。秘密のファンタジーをね。
監督:寿司は大好きだし、刺身も大好きだし、味噌汁も大好きだ。面白いことに、日本に行くまで生の魚を食べたことがなかったんだ。生の魚を食べるなんて、どういうものかまったくわからなかったし、すごく奇妙なものに思えた。もちろん大好きになったけどね。
監督:正直に言うと、クリストフ・ヴァルツが大金をくれたから彼に役をあげたんだ。ウソじゃないよ。彼は素晴らしい俳優ではなく、仕事をあげることで一番私にお金をくれた俳優なんだ。わはは(爆笑)。
クリストフ・ヴァルツは素晴らしい俳優で、私は素晴らしい俳優と仕事をするのが好きだ。一瞬会っただけで、双方とも一緒に仕事をしようってことになった。彼は力量のある俳優だからね。この映画は、クリストフ演じるコーエンについての映画なんだ。彼は一度も映画から消えることがないし、彼が映画そのものなんだよ。クリストフのような素晴らしい俳優と仕事ができるのは最高の経験だったね。彼は驚異的で、知的で、数多くのスキルを持っている。映画を作る上で、驚くべき力量を発揮してくれたよ。
監督:メアリー・ティエリーはフランス人俳優で、友人のフランス人監督が彼を推薦してくれたんだ。彼は本当に美しい女優で、普段はとても物静かなんだ。彼女が演じたキャラクターは、マリリン・モンローとジュディ・ホリデイを足したような女性だけど、メアリーはその要素を完璧につかんでいたね。メアリーは、美しくて、面白くて、セクシーで、静かな女性なんだ。彼女を愛してるよ。妻には内緒だよ(笑)。
監督:良い俳優たちと仕事をしていると、毎日が驚きの連続だね。最高だよ。私は長い時間この世界にいるけど、思うに、映画はどんどん機械的になっている。「ここに立ってくれ」「あれをしてくれ」とか。私はでも、素晴らしい俳優がいるならば、彼らにスペースを与える。彼らは私を驚かせてくれるからね。自分の気に入っているアイディアがあっても、俳優たちが出してくれたアイディアが良かったらどんどんそれを取り入れるし、彼らと一緒にコラボレートして何かを創り上げるのが好きなんだ。監督がいて、一人で現場のすべてをコントロールするというのは好きじゃない。私は映画製作というプロセスの一部になりたいんだ。
監督:色々考えて、我々が生きる現代世界に対する懸念を詰め込もうと思った。世界は非常に繋がっているけど、同時に完全に離れている。顔を合わせて直接コミュニケーションを取る以上に、パソコンやインターネットのコミュニケーションで多くの時間を過ごすからね。ここに付け加えたかった問題は、人は自分自身の世界を創り上げて孤立することができるけど、そのことで本物の人間関係が持つ、面白いものや困難なものや素晴らしいものに対処できなくなるということだ。
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