1933年3月14日生まれ、イギリスのロンドン出身劇団の舞台監督助手から役者となり、『韓国の丘』(56年)で映画デビュー。65年にはレン・デイトンのスパイ小説を原作とした『国際諜報局』(65年)に主演し人気を得る。『アルフィー』(66年)で初めてアカデミー賞主演男優賞にノミネートされる。『探偵<スルース>』(72年)では名優ローレンス・オリヴィエと共演し、共に主演男優賞にノミネートされた。『ハンナとその姉妹』(86年)『サイダーハウス・ルール』(99年)で2度のアカデミー賞助演男優賞に輝く。その他の出演作には『泥棒貴族』(66年)、『ミニミニ大作戦』(69年)、『殺しのドレス』(80)、『オースティン・パワーズ ゴールドメンバー』(02年)、『バットマン ビギンズ』(05年)、『ダークナイト』(08年)、『ダークナイト ライジング』(12年)などシリアスな役からコメディまで演技の幅は広く、93年には英国女王エリザベス2世からCBE勲章(Commander of the British Empire)を授賞され、00年にはナイトに叙され、Sir(サー)の称号を受けた。
スイスの高級ホテルで優雅なバカンスを送る80歳の音楽家・フレッド。ある日、引退した彼の元にイギリスの女王からの出演依頼が舞い込むが、すげなく断ってしまう……。
映像の魔術師とも称され、『グレート・ビューティ/追憶のローマ』でアカデミー賞外国語映画賞を受賞したイタリア人監督、パオロ・ソレンティーノの最新作『グランドフィナーレ』は、年老いた音楽家の愛と葛藤を描いた人間ドラマだ。
主演は、2度のオスカーに輝くマイケル・ケイン。イギリスを代表する名優に、本作について語ってもらった。
ケイン:アカデミー賞外国語映画賞を獲得したソレンティーノ監督の『グレート・ビューティー/追憶のローマ』は素晴らしかった。実は、私も1票入れさせてもらったんだ。アカデミー協会の会員だからね。そしたら、ある日「彼が、あなたの為に脚本を書いたよ」って電話がきた。私は「誰が?」と聞いたよ。そしたらパオロ・ソレンティーノだと言うじゃないか。思わず「本当か? 本当に私に書いたのか?」と聞いた。そしたら「そうだ」と言うんだ。彼はイタリア人の監督だし、私は83歳の英国人役者だ。信じられなくて思わず質問したってわけだよ。タイトルを聞いたら『Youth(若さ)』だと言うから、やっぱり人違いだよと言った。でも、間違いなく私にだった。そして脚本を読んで、圧倒された。
ケイン:この作品は「歳を取ること」ではなく、「歳を取っていくこと」を描いている。「今、お前はどこにいる? 人生のどこにいるんだ?」と問われる内容だ。劇中ではハーヴェイ・カイテルが親友だ。アメリカ人映画監督の役だよ。そして、私の娘役がレイチェル・ワイズ。彼女の作品は見たことがあるが、仕事をするのは初めてだ。この作品は、登場人物のキャラクターがいずれも秀逸でね。私ではなく、皆が素晴らしい。彼らの演技は、非常に見応えがあるよ。
ケイン:ハーヴェイは気のおけない奴だね。かなり親しくなった。作品の中では親友だ。もともと面識はあって、互いに好ましく思っていたとは思う。でも、この作品では2人とも笑いっぱなし。いい奴なんだよ、本当に。そしてもちろん、素晴らしい役者だよ。
ケイン:肝心なのはそこだよ。私は、彼との仕事は難しいものになると思っていた。ところが彼は、非常に分かり易い男だった。私は今まで必死に仕事をしてきた。常にしっかり準備していた。セリフは、少なくとも1千回は練習していただろう。少なくともだ。そこでようやく理解するんだ。そしてそれをやってみて、監督がOKかどうか判断する。パオロは、明らかに私と一緒にやっているんだ。だって、ほとんど指示が無かったからね。でも、何か言う時は、明らかにポイントをついているんだ。そして、非常に静かに指示を出す。昔ハリウッドで見たような、メガホンを持ったスタッフなんかいない。彼はただ近寄ってきて、「こういう風にしてみたらどうだい?」と言うだけなんだ。それが、すごくいい感じで、自分では思いつかないようなことなんだよ。彼は、自分の作品の中で、ちゃんと認識されていないと思うようなところを指示してくる。というのも、常に、自分の想像よりも少し深いところをついてくるからだ。彼は、才能ある脚本家だ。映画の監督をするだけでなく、脚本を書けるんだよ。そして時々、彼が少し深く意図していた点に関して、指示を出す。あぁ、そうか、気づかなかったと納得する。彼は非常に静かで、その過程を愛している。不快なことなど、一つもなかったね。
ケイン:脚本を読んで、もの凄く惹きつけられると同時に恐ろしくなった。なぜなら私はオーケストラを指揮しなくてはならないんだからね。120人編成のフルオーケストラだ。2人のプロ指揮者に2週間レッスンをしてもらった。技術的なことをたくさん教わって、ずいぶん助けてもらったよ。本当にね。それが非常に有効だった。最初のシーンを撮り終えた時、第一バイオリンの奏者が私のところにきて、昨日の指揮者より上手いと言ってくれたんだ。その前日の指揮者というのは、どれだけひどかったんだろうと思ったよ。
ケイン:私のキャリアにおいて常にトライしていたことだが、最も上手くいったと思っている。 私という存在と全ての演技は見えなくなり、フレッドという人物が見えなくてはならない、とにかく、その人物が見えなくてはならないんだ。映画を見ている人が、マイケル・ケインは良い役者だな、などと言うようであれば、それは私に対する侮辱であるに等しい。「フレッドは一体どうしたんだ?」と言ってもらえるようでなければならない。これは大きな違いだ。この作品で私が得たと思ったことを越えた別のステージの話だ。私は、これまでのどの作品よりもこの作品を誇りに思っている。
ケイン:誰にだって若い頃がある。そして、皆、それが失われていくことを恐れているが、この作品は、恐れることなど何もないと言っているんだ。作品の中で、前立腺に何か悪いところでもないかとドクターに診断を受けているところで、それを表すようなシーンが出てくる。ドクターは「どこにも異常は見当たりません」と言う。そして、「それを何と言うか分かりますか?」と聞く。私は、「いいえ」と答える。するとドクターは「それは“若い”ということです」と言うんだ。あなたの体は、どこにも異常がありません、と。
歳をとっても体には何の異常もない、ただ多くを知っているだけだ。
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