『世界が愛した料理人』エネコ・アチャ インタビュー

若き天才シェフが語る、母、故郷、料理への思い

#エネコ・アチャ

料理というのはどこの国でも共通の“言語”

ミシュラン三ツ星レストランにして、「世界のベストレストラン」1位にも選ばれた名店「アスルメンディ」をプロデュースする料理人エネコ・アチャ。彼が究極の料理を求め世界の名店を訪ね歩く様子を描いたドキュメンタリー映画『世界が愛した料理人』が先週、公開された。

美食の地、スペインのバスク地方に生まれ、2012年にスペイン史上最年少でミシュラン三ツ星シェフとなった若き天才・アチャに話を聞いた。

──美食の地として名高いバスクに生まれたわけですが、バスク料理の特徴は何ですか?

アチャ:バスク料理で特徴的なのは味の中には、バスク人が大事にしている環境や伝統を守りながら新しいものを作りたいという意思が入っていることです。料理というのはどこの国でも共通の“言語”で、バスク人は料理を通して、自分たちがどこに住んでいるのか環境や伝統を表しているのです。

──バスク地方にあるあなたのレストラン「アスルメンディ」は、到着すると“ピクニック”を楽しみながらフィンガーフードを味わう、体験型のレストランでもあります。なぜこんな趣向にしたのでしょうか?

アチャ:高級レストランは素晴らしい料理を食べて帰るという場所。だけど、「アスルメンディ」はまずお客様にリラックスしていただきたいと思い、入ってすぐに広がるガーデンで自然を感じながらピクニックするようなスタイルを取り入れました。

──シェフのスペシャリテ、トリュフ卵がとても美味ですね。なぜこのような料理を創り出したのでしょうか?

左:料理中のエネコ・アチャ/右:スペシャリテの「トリュフ卵」

アチャ:一言で言えば、生産者へのリスペクトとして考えました。アスルメンディから見えるすぐ近くの場所に小さな養鶏場があるのですが、そこの卵の味が本当に美味しいのでそれを多くの人に伝えたいと思いました。バスクの伝統的なレシピとして別々の卵とトリュフを一緒に食べるものがあるのですが、それではどうしても卵を新鮮なまま提供できません。それで生産者へのリスペクトとして、卵黄にトリュフの香りを抽出した液体を注入するスタイルが生まれました。

──食の世界に魅了されたのは、お祖母様、お母様の影響とうかがいました。

アチャ:魂から出てくる料理はやはり母から教えてもらった料理です。とても優しい人でいろいろ教えてもらいました。

──映画の中で、フランスの名シェフ、ジョエル・ロブションにも会いに行きますね。

アチャ:彼は私にとって素晴らしい先生でした。レシピが素晴らしいだけではなく、本当に素晴らしい方でした。彼の店は世界中にあり、彼の知識を広げ、さらに共有させていただけていることに感謝しています。

──日本も訪れ、「すきやばし次郎」にも行っていますね。日本料理や日本の料理人についての感想を教えてください。

名店「すきやばし次郎」の小野二郎
『世界が愛した料理人』
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アチャ:バスク料理と日本料理はガストロノミーにおいて似ていると思う部分があり、興味深いと思っています。そしてもう一つ似ていると思うのがテーブル。日本人もバスク人もテーブルを一つのシンボルとして捉えているような気がするのです。バスク人にとっても日本人にとってもテーブルはお祭りのよう。お祝いの時にみなさんが座って食べる。そのお祭りのようなものをエネコ東京でも提供したい。

──昨年の秋には、西麻布に「エネコ東京」をオープンさせていますね。

アチャ:バスクの魂を残したいということを大事にしつつ、日本の食材や四季に合わせたものをメニューに取り入れています。

──最後に日本人へのメッセージをお願いします。

アチャ:映画『世界が愛した料理人』を楽しんでください。それから、エネコ東京は皆さんの家のようにいつでも歓迎いたしますのでぜひお越しください。

エネコ・アチャ
エネコ・アチャ
Eneko Atxa

1977年9月14日生まれ。スペインバスク地方ビスカヤ県出身。バスク州ビスカヤ県ララベツにあるレストラン「アスルメンディ」のオーナーシェフ。 祖母と母の影響から料理と食の世界に魅了され、彼女たちから食材選びの極意とバスク料理の伝統を教え込まれた。2007年にミシュラン一ツ星を獲得。2012年にはスペイン史上最年少の三ツ星シェフになった。2017年、東京・西麻布に「エネコ東京」をオープン。