1989年、カナダ・ケベック州出身。幼少期より子役として活動、19歳の時に監督、主演、脚本、プロデュースを手掛けた半自叙伝的なデビュー作『マイ・マザー』(09年)がカンヌ国際映画祭監督週間で上映された。『Mommy/マミー』(14年)でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞、『たかが世界の終わり』(16年)でカンヌ国際映画祭グランプリに輝いた。また、本作のオープニング曲を担当したシンガーソングライター・アデルのミュージックビデオを手掛け、カナダのグラミー賞に値するジュノー賞で年間最優秀賞を受賞。次回作は、愛と友情の狭間で揺れる2人の青年のラブストーリー『Matthias & Maxime(原題)』(20年、日本公開予定)で、自身も出演している。
19歳で撮った作品が世界的な高評価を得て、『Mommy/マミー』でカンヌ国際映画祭審査委員賞を、前作『たかが世界の終わり』でカンヌ国際映画祭グランプリを受賞と、20代で輝かしいキャリアを築いたカナダの若き俊英グザヴィエ・ドラン。そんな彼が監督デビューから10年を経て、初めての英語作品に挑んだのが、『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』だ。29歳でこの世を去った人気俳優ジョン・F・ドノヴァンと、彼にファンレターを送った11歳のルパート少年の物語。スターの死から10年後、新進俳優に成長したルパートは“秘密の文通”を公開するが……。
ドラン監督が8歳の頃、『タイタニック』に出ていたレオナルド・ディカプリオにファンレターを書いたという思い出をヒントにしたといい、これまでの作品で一貫して描いていた「母と息子」というテーマの集大成でもあるという。そんなドラン監督が、作品への想いや撮影について語った。
監督:この作品はとても大きなチャレンジだった。僕は低予算のインディペンデント映画からスタートして、もう少し大きめのインディペンデント映画へと移行してきた。本作もインディペンデント映画ではあるけど、過去の作品とは規模が違う。さらに、作品にかけた時間も断然長い。2012年の年末から友人のジェイコブ・ティアニー(モントリオール出身で元子役)と脚本を書き始め、撮影と編集をして、2年かけて完成させたんだ。これまでは2ヵ月ほどで編集を終えていたからね。初めての体験だから苦労が多く、時に孤独感や喪失感に襲われたけど、完成した作品を見て、「これだ、これを作りたかったんだ」と実感した。時間をかけた甲斐はあったね。
監督:アイディアが浮かんだのは、『マイ・マザー』を監督している時だ。4〜5年間、頭の中で構想を練ってからやっと脚本を書き始めた。当初から誰かと組んで脚本を書きたいと思っていたんだ。ティアニーは、この作品に共感できる部分が多かったはずだ。決して無視はできない共通点が多いし、それが脚本にも反映されている。でも、彼の子役としての経験だけから生まれた作品ではない。僕たちにはそれぞれ思い描いていたアイディアや試したいことがあって、それを盛り込んだんだ。
監督:僕は映画を作ることがとにかく好きなんだ。どの作品も自分自身に与えている訓練や挑戦のようなものだと思っていて、毎回何らかの目標を設定している。この作品でも、当初用意した“やることリスト”はすべて達成できたよ。まずは今までと違う場所で撮ること。次に、ある時代にトリビュートにすること。そして1990年代のファミリードラマに捧げることだ。『グッドナイト・ムーン』、『ミセス・ダウト』、『ジュマンジ』、『ホームアローン』、『タイタニック』、『リトル・プリンセス』、『バットマン・リターンズ』へのオマージュなんだ。どれも僕が子どもの頃に夢中になった映画で、すべて参考にしたよ。特に『タイタニック』は単に子どもの頃から好きというだけでなく、僕にとってすべての出発点だった。性に目覚めて、カルチャーや映画に対しても目覚めた。そして野心的な作品に刺激され、人生にも目覚めたんだ。
監督:僕らは本作を通して、この業界においてアイデンティティを確立することがいかに難しいかを伝えたかったんだ。自分らしくいること、ありのままの自分を受け入れることがどのような結末をもたらすのか、どんな犠牲を伴うのかをね。それはもちろんゲイであることを指している。実は多くの人に、「この作品を作るべきだ。業界にはこれだけゲイの人が多いし、もはや問題ではないから」と言われた。彼らの言うとおりゲイは多いけど、同等のチャンスを与えられているかというとそうではない。この作品の中でジョン・F・ドノヴァンは、本来の自分を周囲に明かすことで、俳優として多くのチャンスを逃すのではないかと恐れている。彼は秘密主義で、素の姿をあまり見せないタイプだが、カミングアウトすれば人生もキャリアも一変してしまうと分かっているんだ。最近、SNSでカミングアウトする若く勇敢なアーティストが多いけど、彼らの文章を読んでいると、大きな決心をした上で発表したことが伝わってくる。「自分に素直になり、誇りを持って生きたい」と書かれていても、行間を読むと、すでにその時点で犠牲を払っているのが分かる。彼らはかつて抱いていた夢をシフトせざるを得ないんだ。誰だってレッテルを貼られたり、グループに分類されたりするのは嫌だと思う。でもこの業界はまさにそういうことをしているんだ。この作品ではそれを伝えたかった。
監督:彼とはイタリアで会ったんだけど、とてもカリスマ性があって心優しい人だった。彼はちょうど『ゲーム・オブ・スローンズ』(テレビシリーズ)を撮り終えたばかりで、僕は用事があってミラノからローマに向かっている途中だったから、トスカニーニの田舎にある一軒家で夕食を共にしたんだ。素敵な夜だったよ。スカイプで一度話しただけで、実際に会うのはその時が初めてだった。これは本人には言ったことがないと思うけど、彼の秘密めいたところに何よりも魅了されたんだ。彼は秘密を隠しているような目をしていて、この役には欠かせない要素だった。もちろんそれがすべてではないけど、重要なポイントだった。
ドラン:みんな僕が子どもの頃から憧れていたヒーローのような存在なんだ。僕は当時から大好きなアーティストに手紙を書いて、返事が来ることを夢見ていた。映画監督になった今でも役者たちに“ファンレター”は書いているよ。「あなたの大ファンです。ぜひこの脚本を読んで、会ってもらえたらうれしい」と。すると、うれしいことに役を引き受けてくれたりするんだ。
監督:この作品では、少年だよ。彼はテレビ画面に映っている役者たちに憧れて、いつか自分もああなりたいと思っているんだ。僕もまさにそういう子だったんだ。
監督:僕は腕に彼の顔のタトゥーを入れているくらいファンなんだ。彼にタトゥーを見せたら、微妙な反応をしていたけどね。彼の気持ちも分かるよ。
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