ブラジル・リオデジャネイロ生まれ。週刊プレイボーイ記者を経て、1999年「教習所物語」(TBS)で脚本家デビュー。2014年、『グレイトフルデッド』がゆうばり国際ファンタスティック映画祭、ベルギーのブリュッセル・ファンタスティック映画祭などで高評価を受け、『下衆の愛』(16年)はイギリス、ドイツ、香港、シンガポールなどでも配給された。Netflix『全裸監督』(19年)の脚本・監督を務め、20年にオリジナル脚本を手がけた草彅剛主演『ミッドナイトスワン』を監督。同作は日本アカデミー賞最優秀作品賞、同最優秀主演男優賞を受賞した。
ドラマ『列島制覇−非道のうさぎ−』内田英治監督インタビュー
『ミッドナイトスワン』監督の最新作、テーマはやくざと合唱!?
小沢さんの歌があんなに下手くそだとは思わなかった(笑)
第44回日本アカデミー賞で最優秀作品賞、最優秀主演男優賞(草彅剛)を受賞した『ミッドナイトスワン』の内田英治監督。その最新作となるのが、配信ドラマ『列島制覇−非道のうさぎ−』。Vシネマ界の帝王、小沢仁志を主演に全8話で描くのは、極道と合唱という異色の組み合わせのアウトローのドラマだ。
かつて“非道のうさぎ”と恐れられ、15年の刑期を終えて出所した宇佐木(小沢)は出所早々に新しい組を立ち上げるよう命じられるが、服役中にハマった合唱の魅力も忘れられず……。商店街の潰れた風呂屋を事務所に構え、エコーの効いた風呂場で練習に励む一方、対立する組との抗争も激化していく。
極道も合唱もどちらも大事、と揺れ動く“うさぎ”と、兄弟分と列島制覇の夢実現に燃える片岡(新羅慎二)を中心に、歌と商店街の人情あり、仁義と裏切りあり、と盛りだくさんのドラマは、笹野高史やでんでん、真飛聖、萬田久子など出演者も豪華な顔ぶれだ。4月16日からU-NEXTで先行配信が始まった同作について、内田監督に話を聞いた。
監督:全く予測もしなかったですね、僕も。封切って2週間で終わりだろうなと思っていました(笑)。
監督:そうですね。真逆の(笑)。
監督:いわゆる、ゴリゴリのやくざものをやらないか、と話をいただいたんです。コメディ要素とかはない、男だけの世界、みたいな。
監督:でも、男臭い世界観はちょっと苦手でして。昔のVシネって、コミカルなものが多いんです。そこで、主人公に歌わせたら面白いだろうなと思って、スタートしました。
監督:そうですね。逆に言えば、小沢さんじゃなかったら面白くないだろうなって(笑)。
監督:そうですね。でも、あんなに下手くそだとは思わなかった(笑)、歌が。
最初に本人も「俺はめちゃめちゃ下手だぞ。」と仰っていて、まあまあ、ご謙遜を、と思ってたんですけど、ほんとに下手くそでした。(笑)。
監督:設定ではありますね。ほんとになったかどうかは、見てのお楽しみです(笑)。
監督:はい。実は僕がVシネをよく見ていたのは、小沢さんが出演するようになるよりも全然、前の初期の頃です。世良公則さんとか三浦友和さんとかも出ていました。なので、その後の世代の小沢さんに対しては勝手なイメージを持っていて。それが良かったんですけど、逆に言うと。スタートしたら、全然そのイメージと違うんですよね。
監督:まっすぐな役者さんですよね、ほんとに。昔ながらの、ザ・俳優。役作りとか、気持ちの作り方において「カッコいいのは、こっちだろう」みたいにされるイメージだったんですけど、全然違う。中から、気持ちから、ちゃんと作って。
監督:そうですね。ナチュラルは1回しか使えない。彼女が次にナチュラルな芝居できるのかっていったら、それは絶対できないと思います。あの1作限り。今はもう女優ですから。それがナチュラル。リアルっていうのは何回でも突き詰められるものです。例えば、今回で言えば、新羅(慎二/若旦那)さんがナチュラルとリアルの間ぐらいにちょうどいる演技をしていたと思いますね。「いないだろ、こんなやつ。」って思うけど、いるんですよね(笑)。歌舞伎町とか行くと。
日本の学校は地獄、ジャングルのような環境だった
監督:そうです。もう、ファンタジーですね。ナチュラルとかリアルの正反対のものがVシネです。仁義とか、すぐ“兄弟”っていう言葉が、やくざもので出てきますけど、ご存じのように、本当の犯罪社会で仁義なんか貫いてたら生きていけませんから(笑)。
でも、それはファンタジーとして、そういう世界のルールの上で楽しむものなんで、そこはもうファンタジーで見てもらえればいいなと思ってますけど。あえてやってる部分は、いっぱいあります。それが好きな人も大勢いますからね。熱いドラマを見たい人たちは絶対いる。それは『ミッドナイトスワン』を見に行く人たちとは、たぶん客層は違うと思います(笑)。
監督:びっくりしますよね。でも、売れてるマンガを映画化する大作をやるよりは、Vシネやったほうが面白いですよね(笑)。
監督:ベテランの役者さんは基本、大好きなんです。何をやっても説得力がありますよね。笹野高史さん、でんでんさんしかり、六平直政さんとか。もう、何をやらせても面白いっていう。何なんですかね……人間力? もはや芝居じゃない気はしますよね。ベテランでも、演技的な部分では惹かれない人もいっぱいいますし。あとは、坊主ですかね、やっぱり(笑)。
監督:そうです、そうです。六平さんとか、ブルース・ウィリスとか、大好きなんですよ。
監督:どの現場もそうですね。2パターンあって、台詞をその場で作っていって、言ってもらうのと、設定を勝手に決めて、台詞は役者たちに勝手に考えてもらうという場合があります。ベテランの方たちは、設定さえ決めれば、勝手に、いくらでもやるんで。『ミッドナイトスワン』だと、樹咲ちゃんや草彅さんには、こちらが台詞自体を決めて、その場で言ってもらうという。それぞれ全然違う面白さがありますね。やっぱり、せっかくなので現場を楽しみたいんです。
監督:もう、そこしか楽しくないですよね。(笑)。むしろ。
監督:映画は盛り上がるポイントが一瞬、1回しかないですけど、ドラマの場合、8話あったら8回あるわけじゃないですか。毎回、ただ内容が面白いだけじゃなくて、クリフハンガーを考えるのが楽しい。いかに次へのサスペンスにつなげて、見てもらうか。映画はある意味、観客をその1作に閉じ込めちゃうので、作り方が全然違いますね。だから、普段、映画で絶対やらないことをドラマではやってみたい。
監督:もう、いっぱいある。効果音を大げさにするとか、音楽を付けまくる。芝居もちょっとオーバーにするし、映画じゃ、もう絶対やんないような台詞を使うとか。映画じゃできないことをやりたい。すると、どうしてもジャンル系になっちゃいますよね。連続ドラマで、ヒューマンドラマをやりたいって、1ミリも思わないですね(笑)。
監督:そうですね。そんな、8時間も何を描くんだ、と思って。
監督:いやもう、地獄ですよ(笑)。環境的には、ブラジルが地獄なはずなんですけど、日本のほうが、なかなかつらかったですね。僕の場合は。
監督:はい。祖母が大分にいて、親はそのまま違う駐在地に行っちゃったので、僕は中学から祖母と一緒でした。なかなか、ジャングルのような環境でしたね。学校ではよくいじめられてました。なかなかの地獄だったんですけど、僕は映画に逃げ込んでました。現実世界は地獄、映画館に行くと天国、みたいなのが2~3年あって。最終的には脱したので、良かったんですけど、あのまんま脱せれずにいたら、どうなってたんだろうって思ってますね。
監督:あると思いますよ。例えば、今回小沢さんが演じた宇佐木が音楽に救われたように、芸術に救われるっていうことは絶対的に、めちゃめちゃあると思うんですよね。
現実がつらい時ってあるじゃないですか。そこを忘れさせてくれる。だから、コロナの時に、やっぱり映画とか音楽が重要というのは、すごい分かりますよね。
『列島制覇』は、「だからこれを見て」って言えるほど、ライトな作品ではないと思うんですけど(笑)。でも、何かの現状を変えたい人の話でもあります。あとは、普段からVシネを見ているコアなファンの方々が、これを見てどう思うのかはすごく関心がありますね。
(text:冨永由紀)
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