『明日に向かって笑え!』セバスティアン・ボレンステイン監督インタビュー

悪徳弁護士に奪われた財産と夢を取り戻す! 小さな田舎町で巻き起こる奇想天外なリベンジとは

#アルゼンチン#セバスティアン・ボレンステイン#明日に向かって笑え!

明日に向かって笑え!

真面目に生きている“バカ正直者”が、エリートと闘う物語を描きたかった

『明日に向かって笑え!』
2021年8月6日より全国順次公開
(C)2019 CAPITAL INTELECTUAL S.A./KENYA FILMS/MOD Pictures S.L.

預金を騙し取られた田舎の住民たちが一致団結し、弁護士相手に大胆な金庫破りを仕掛ける“アルゼンチン版オーシャンズ11”、『明日に向かって笑え!』が8月6日より公開される。

舞台は2001年のアルゼンチン、隣人達との温かな繋がりが残る小さな田舎町。町に暮らすフェルミンは友人らに呼びかけ、長年放置されていた農業施設を地域の農協として復活させるための資金を集める。だが現金を銀行に預けた翌日、金融危機で預金は凍結。しかもこの状況を悪用した銀行と弁護士に騙し取られて無一文となり、絶望のどん底へ……。何もかも失ったフェルミンだったが、出資してくれた仲間たちと協力し、弁護士が盗んだ現金を隠している地下金庫の場所を突き止める。奪われた財産と夢を取り戻すべく、人生を地道に歩んできた庶民たちの、奇想天外なリベンジ作戦が始まった!

アルゼンチン出身で世界的に活躍する名優リカルド・ダリンが主演し、実の息子であるチノ・ダリンと共演、親子でプロデューサーにも名を連ねた本作には、アルゼンチンの実力派キャストが集結。本国公開時は24週間のロングラン上映されるほどの大ヒットを記録した。本作のメガホンをとったセバスティアン・ボレンステイン監督にインタビュー。

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──本作を制作することになった経緯を教えてください。

監督:本作のプロデューサーでもあるリカルド・ダリンとは、これまで長い間仕事をしてきました。友人でもあり、彼が権利を獲得したこの作品を一緒にやろうということになりました。そして、エドゥアルド・サチェリ氏の原作を読んで、登場人物たちに感銘を受け、監督の仕事を受けることにしました。

──リカルド・ダリンやチノ・ダリンとの映画作り、また原作者でもあるエドゥアルド・サチェリとの脚本作りはいかがでしたか?

監督:作品を作るきっかけになった、リカルドそして(彼の息子の)チノと仕事をするのは楽しみでした。それにリカルドとはこれまで色々な作品を一緒にやってきて、人生を共にしてきた時間も多いので、彼の考えはとても理解できます。そして二人のことをよく知っていることもあり、良いチームで作品を作ることができましたし、楽しかったです。
サチェリ氏と脚本を執筆するのは、原作者はいわゆる生みの親であるということもありますから、正直、予想以上に大変難しかったですね(笑)。

──主人公フェルミンの妻リディア役を演じたベロニカ・ジナスさんは、アルゼンチン・アカデミー賞最優秀助演女優賞も受賞し、とても印象的な演技でした。

監督:本当に素晴らしい女優さんで、個人的にも良く知っているのですが、この役は彼女しかいないと思いキャスティングしました。身を捧げて演じる彼女のお陰で、リディアという役がより良いものとなり、彼女の存在自体がこの作品にとって重要なものとなりました。本当に彼女の演技は素晴らしい。彼女が現場にいるだけで、雰囲気が明るくなり、かけがえのない存在でした。

──本作の原作タイトルは“La Noche de la Usina”(=発電所の夜)ですが、映画のタイトル(原題)を”La Odisea de los Giles”(=まぬけたちの一連の長い冒険)にした意図は?

監督:原題の“Giles”というのは勤勉実直で、まっすぐな一般の人たちのことを表わします。それは、この映画の特徴を表わしていると思います。そんな真面目に、日々コツコツと生きている人たちに困難が降りかかり、波乱万丈の物語(オデッセイア)が展開するということを表現しかったのです。時代の生贄(スケープゴート)となってしまった人たちが、どのようにその困難を乗り越えていくのかをドラマにしたかったんですね。アルゼンチン人にとって“Giles”(まぬけものたち/バカ正直者)という言葉は、愛情をもって表現する人物像なのです。だから彼らが“エリート”と闘う物語を描きたかったのです。

──本作は2001年のアルゼンチン危機〈債務不履行(デフォルト)〉を背景にしていますが、実際当時はどんな状況だったのでしょうか?

監督:あの頃のアルゼンチンはすべてが止まり、すべてが終わり、世界の終わりのようでした。初めての経験で、死に等しいと感じるぐらいの困難が続いて、本当に苦しい時でした。人々はユーモアも忘れ、それまでの場所がなくなり、人によっては国を去っていかなければならないくらいでした。未来を感じることができずに、暗闇の中にいるような感じでした。だからこそ、そこから抜け出せるきっかけを探していたのかもしれません。

明日に向かって笑え!

『明日に向かって笑え!』撮影中の様子。右端がセバスティアン・ボレンステイン監督

──アルゼンチンでの大ヒット(2019年アルゼンチン映画動員No.1)は予想されていましたか?

監督:正直とても驚きました。この困難な時代の中で、アルゼンチンで200万人以上の観客が映画館に来てくれたことにとても感謝しています。公開したタイミングが2019年なのですが、2001年から時を経て、アルゼンチンの人々が受け入れられる時期だったのかもしれません。

──コロナ禍の日本では外出自粛やソーシャルディスタンスなどで人との接し方が希薄になってしまったところもあり、本作で描かれる家族や友人同士の親密さ、助け合う姿を見て、改めてその大切さを感じる部分もありました。世界的なパンデミックで不安定な時期ではありますが、監督は本作からどのようなことを感じ取ってほしいですか。

監督:まず映画製作のチーム全体が、世界的に難しいこの時期に、日本をはじめ他の国で公開されることをとても嬉しく思っています。この作品を観て、映画館を出る時に少しでも希望をもっていただければとても嬉しいです。そしてアルゼンチンの文化が、日本の観客の皆さんにどのように受け止められるかは分からないですが、クスっと笑ってくれて、少しでも楽しい時間を映画館で過ごしてくれることを願っています。

セバスティアン・ボレンステイン
セバスティアン・ボレンステイン
Sebastian Borensztein

1963年4月22日、アルゼンチン、ブエノスアイレス生まれ。数々の賞に輝いた経歴を持つ脚本家兼監督。長編映画監督前にはアルゼンチンのテレビ界を代表するプロデューサー、監督、脚本家として活躍していた。2011年、『Un Cuento Chino』でゴヤ賞最優秀スペイン語外国映画賞を受賞。その他、ライオンズゲートとグルポ・テレビサ製作『Sin Memoria』(08年)の監督・脚本(共同執筆)、『La Suerte Está Echada』(05年)の監督・脚本も務めた。