フランス、イヴリーヌ県・ヴェルサイユ郡出身。国際的に活躍する音楽ユニット「ヌーヴェル・ヴァーグ」のプロデューサー。10代の頃には音楽ユニット「AIR(エール)」のニコラス・ゴダンや音楽プロデューサーのアレックス・ゴファーらと音楽活動を始めた。2003年にポストパンクの名作をボサノバやレゲエなどで再構成する革新的なアイデアを得て、04年にオリヴィエ・リヴォーと共にヌーヴェル・ヴァーグとして初めてのアルバムをリリース。その後マーティン・ゴア(デペッシュ・モード)、テリー・ホール(スペシャルズ)、ヴァネッサ・パラディ、ジュリアン・ドレ、チャーリー・ウィンストンなど多くのゲストが参加して、4枚のアルバムがリリースされている。映画音楽も数多く手がけ、ジュリー・デルピー監督&主演の『パリ、恋人たちの2日間』(07年)のサントラにも「ヌーヴェル・ヴァーグfeat.ジュリー・デルピー」として参加している。本作『ショック・ドゥ・フューチャー』で監督デビュー。自らの製作会社も持ち、会社名はニューオーダーの有名な楽曲から「The Perfect Kiss」と名付けられている。
『ショック・ドゥ・フューチャー』マーク・コリン監督インタビュー
エレクトロ・ミュージック誕生前夜のパリ、電子楽器との出会いが“未来の音楽”を奏で始める
有頂天になった直後にどん底に。これはすべてのアーティストが経験すること
パリの音楽業界を舞台に、エレクトロ・ミュージックに魅せられた若き女性ミュージシャンを描く映画『ショック・ドゥ・フューチャー』が8月27日より公開される。
1978年、フランス・パリ。若⼿ミュージシャンのアナは、部屋ごと貸りたシンセサイザーで依頼されたCMの曲作りに取り掛かるものの、納得のいく曲が書けずにいた。すでに約束した締め切りは過ぎ、担当者は何度も急かしにやって来る。シンセサイザーの機材が壊れ、修理を呼ぶハメになったアナだったが、修理業者が持っていた日本製のリズムマシン(ROLAND CR-78)に魅せられ、「これがあればものすごい曲を作れる!」と確信。収録にきた歌手のクララと話すうちに、アイデアが浮かび即興で曲を作り始める。果たして、大物プロデューサーも参加する夜のパーティーまでに、“未来の音楽”を完成させることはできるのか。
1970年代後半といえば、エレクトロ・ミュージックの世界的なブレイク前夜。シンセサイザーやリズムマシン、シーケンサーなどの電⼦楽器が普及し始め、⽇本でもYMO(イエロー・マジック・オーケストラ)が結成された頃。未来的な⾳の響きに⼼躍らせる女性ミュージシャンのアナを演じるのは、映画監督のアレハンドロ・ホドロフスキー(『エル・トポ』)を祖父に持ち、モデルとしても活躍するアルマ・ホドロフスキー。監督は⾳楽ユニット「ヌーヴェル・ヴァーグ」の活動で知られるマーク・コリン。本作が監督デビューとなったコリンが、音楽活動の手法を取り入れたという独自の映画作りについて語ってくれた。
・日本製リズムマシンに魅せられた女性ミュージシャン!レトロブーム再来の現代に響く“ゆらゆら”サウンド
監督:もともとフルタイトルは『Le Choc du future, une journée particulière dans la vie d’Ana Klimova』(未来の衝撃/アナ・クリモヴァの人生の特別な一日)でした。アメリカのSF映画に、作家主義的なロシア映画の副題をつけたような響きで、気に入ってました。対立する2つの世界が並置されていることに惹かれていたのです。副題を取って『未来の衝撃』だけにしたのは、先見性を持ち、未来の音楽を予知した女性の物語だからです。1970年代、エレクトロニック・ミュージックはヒッピーのものとみなされ、ほとんど古臭いイメージでした。1980年代を知っている私は、1984年に初めて自分のシンセサイザーを手に入れましたが、当時この種の音楽は評判が悪かった。ミュージシャンなら、ドラマー、ギタリスト、ベーシストのいずれかでなければならなかったのです。今では考えられないことですが、シンセサイザーを所有することは金持ちがやることだった。それほど当時はシンセサイザーが高価だったのです! そういう意味で、現在いたるところで使われているエレクトロニック・ミュージックの成功を、私は完全な勝利だと考えています。本作のヒロイン、アナにはそれが見えていた。こうなることを予見した。それは衝撃でした。付け加えれば、私が好きなアルビン・トフラーの本のタイトル「Future Shock」への目配せでもあります。
監督:偶然、撮影の数日前にシンセサイザーのコレクターを訪ねました。シンセのコレクターは車のコレクターと同じで、実際には使わないし、ミュージシャンでもない。彼の広大なアパルトマンに、映画に出てくるようなシンセが何台もあった。世間話をしているうちに仲良くなり、数日後、彼の自宅での撮影許可を取りつけました。それでパリ19区にある彼の自宅を2週間ほど占拠したわけです。機材の移動はほとんどないため、非常にスピーディーに作業を進めることができました。
彼の家には1970年代風の雰囲気があり、ターンテーブル、ラウドスピーカー、あの壁紙、そしてもちろんアルマが作業するあの巨大なマシーン、すべてが揃っていたのです。彼のCDを移動してもらうだけですみました。
監督:大切なのは、自分が何を求めているかを正確に知ることです。キャスティングがうまくいけばあとは技術者に合流してもらうだけで、複雑ではありません。レコードを作るのと同じで、適切なミュージシャン、適切な曲、適切なボーカルがいれば、3回のテイクでレコーディング完了です。映画でもそれは同じで、ショットの構図さえ決めてしまえば、あとは女優が演技し、2テイクで十分なこともあります。それにほぼ閉鎖空間での撮影ですから、照明や機材の運搬、待ち時間を避けることができます。撮影で時間がかかるのはこうした技術的なセッティングですからね。そういう意味では非常に余裕のある撮影条件でした。アルマにしても、控え室で何時間も待つ必要はありませんでした。
監督:再度、音楽に例えてみましょう。完備されたスタジオを使わず、マイク1本だけで声を録音した場合、ポストプロダクションで多くのエフェクトを加えて、超ビンテージな声質に仕上げることができますよね。あえて質感をざらっとさせたり、個性を出したりね。本作でも同じことをしたかったのです。スコープフォーマットの画面サイズでデジタル撮影した後、かなり映像に手を加えました。どの部分をとってもこの作品がわずかな資金で短期間に作られたとは思えないような、個性的なスタイルに仕上げたのです。
監督:私は自分の音楽活動の方法を、映画制作に当てはめました。私は直感を信じます。まず、女優でもある歌手を選ぶことにしました。アルマについては、周囲の人たちからよく話を聞いていました。彼女のバックでキーボードを弾く友人もいますし、パーティーで彼女に2~3度会ったこともあります。彼女しかいないと確信しました。アルマは年齢もぴったりで、電子音楽に興味があり、歌も少しやっていましたし、キーボードを弾くことができる。私が台本を送って返事があったのは1ヵ月後でしたが、興味を持ってくれたのです。私は彼女以外には探そうともしなかった。彼女とスクリーンテストもしなかったくらいです。アナはアルマだった。シンプルなことでした。
監督:クララ・ルチアーニは、彼女をすでに想定してキャラクターを書いたので、クララと名づけたのです。私は、彼女がパリに出てきて最初に会った人間の一人でした。18歳だった彼女は、自分のギターで短い曲を2~3曲弾いて聴かせてくれました。そうして彼女は仕事仲間の一人となり、私のバンド「ヌーヴェル・ヴァーグ」のツアーに同行もしました。
一方で、彼女は一度も演技経験がありませんでした。賭けでしたが、演じることは彼女の夢でもあった。撮影現場の雰囲気はとてもフレンドリーで、40人の技術スタッフに囲まれることも、ジャッジされることもなければ、時間の重圧もなかったので、彼女は安心して仕事ができました。私の意見では、彼女とアルマの息がぴったり合ったことが、この映画の最も成功した部分だと思います。アルマ演じるアナは、下心を持って彼女に会いに来る男たちの扱いにうんざりしています。そしてようやくクララの登場で何かが起こるのです。クララがもたらすインスピレーションこそ、アナに必要なものでした。これはミュージシャンが常に経験していることです。私たちは何週間もかけて一人で作業をし、声をイメージするのですが、誰かがやってきて生の声を乗せてくれた瞬間に状況は一変するのです!
監督:はい。彼女はまさにアートディレクターに希望をくじかれます。道のりはまだまだ長いということが観客にもわかるわけです…。私はミュージシャンの現実を見せたかった。彼女は一日で、5年分の経験をするのです! 本人はうまくいくと思っていて、周囲の反応におだてられ有頂天になっているのに、その直後にどん底につき落とされる。これはすべてのアーティストが経験することです。友達には好評なのに、レコード会社には相手にされず、2年後にまた来てくれと言われる。こうした現実は映画ではあまり描かれません。でも、彼女はその後スタジオに行って、誰かに声をかけてもらえさえすれば立ち直れる。最後は、これからも粘り強く自分の音楽を追求する覚悟を決めた彼女が、マシーンに向き合う姿で終わります。再びエンジンがかかり、彼女は希望を取り戻すのです。
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