「腐敗は暴かれるべき」ジョニー・デップが訴える

ジョニー・デップ製作・主演で日本四大公害の1つ水俣病を世界に知らしめた写真家ウィリアム・ユージン・スミスを描いた『MINAMATA―ミナマタ―』が、9月23日に公開される。このたび、ジョニーとアンドリュー・レヴィタス監督の記者会見映像が公開された。

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記者会見の映像は、25分以上に及ぶジョニーの話を中心とした見応えある1本。

主演だけでなくプロデューサーとして本作に携わっているジョニーは、「今は世界が非常に奇妙且つ厳しい局面を迎えていますよね」と始め、なぜこの映画に参加しようと思ったのか語り始めた。

「この作品に参画することに全く迷いはありませんでした。なぜ私がプロデューサーとして参画したかと言うと、単純に作られるべき映画だと思ったからです。日の目を見るべき映画だと思ったのです」

そのため、以前からユージンについて知っていたこともあり、ジョニーはユージンを「演じるというより、自然に行動、反応した」という。

「お伝えしたいのはこの物語の重要性です。第1にこれは、多くの人を苦しめた出来事です。第2に今も世界中で同じようなことが起きています。まさに今も私たちは苦しんでいますよね。いわばウイルスと戦争をしているような状況です」

その点でも、本作品がこの時代だからこそ見てほしい作品であることをアピール。そして、ジョニー自身も、「本作品で、映画への情熱がさらに高まった」と、映画製作に対する熱い思いを吐露した。

続いてジョニーは、「企業などの腐敗はどこにでも存在しうる。そして、摘発する人がいなければはびこってしまう」という問題意識を強調。「人々を大きなおもちゃのように扱い、貯金を膨らませている人がいる」と、半世紀にわたる水俣病から現代までの間に起きている様々な格差にまつわる諸問題についても思いを致した。

日本のファンに向けては、「本作を気に入り楽しんでもらえることを祈ります。そしてこの映画で描かれていることが少しでも皆さんの心を動かし影響を与えられたらと思います」と語り、水俣の小さな漁村で実現できたのであれば、外の場所でも同じことができるはずだと訴える。

その上で、「私たちがすべきことは本当にシンプルです。1日1分でもいい、他の人のために自分にできることはないかを考えることが大切です」と呼びかけた。

また、自動車事故が起きると野次馬が減速するため渋滞がひどくなることを例に挙げ、「人は目撃者になりたいという性質があります。そういうものを見るぐらいなら、もう少し視野を広げて、他人のために立ち上がりましょう」と述べた。

「撮る人と撮られる人の関係を泥臭くも美しく、静かに描く」

また、この映画を一足先に鑑賞した著名人が、新たにコメントを寄せた。

歌手の加藤登紀子さんは、本作品を見て何年分も号泣したと言い、「水俣の地元の人たちの抑制された表情も、起こったことの酷さも、ものすごく伝わってきます。坂本龍一さんの音楽が素晴らしい!」とコメント。

アナウンサーの宇垣美里は、ユージンの写真に水俣病患者と家族の感情が克明に刻まれていることに心を寄せ、「強いものが弱いものを痛めつけてる。その構造は四十数年経った今も何一つ変わっていない」と共感する思いを語った。

作家で「水俣 天地への祈り」を著した田口ランディは、「国を超え共に人類の行く末を考えていこう、という、ジョニー・デップのメッセージを受け取った。コロナ時代の指針となる映画だ」と賞賛。

人類学者の磯野真穂は、「これは、“なかったこと”にすることを拒んだ人たちの壮絶な戦いの軌跡だ」と本作品を評価する。その上で、写真の本質について触れ、「写真は撮られる者だけでなく、撮る者の魂すら奪う。だから、本気で撮れ。そう言い放つユージンの魂をこの映画から感じて欲しい」と語った。

2020年ユージン・スミス賞受賞の写真家・岩波友紀は、写真が撮る側と撮られる側の心の交流を前提に成立していることについて触れ、「たった1枚の写真が、どれほどの時間と葛藤を費やして生まれたか。撮る人と撮られる人の関係を泥臭くも美しく、そして激しい水俣の事象が静かに描かれているからこそ、心に突き刺さってくるのです」と実感を込めてコメントした。

写真家ユージン・スミスの最後のプロジェクトを描く

本作品は、熊本県水俣市のチッソ工場の廃水を原因とした日本四大公害病のひとつ水俣病を世界に知らしめた写真家ウィリアム・ユージン・スミス(William Eugene Smith)の実話に基づく映画。

ジョニーは、長年の憧れであるユージンの遺作となった写真集「MINAMATA」を基に、「映画の持つ力をフルに活用して、この歴史は語り継がなければならない」と自ら製作、主演を努めて映画化した。その他の出演は真田広之國村隼美波加瀬亮浅野忠信岩瀬晶子ビル・ナイ監督はアンドリュー音楽は坂本龍一

本作品の舞台は、71年のニューヨーク。あるときユージンは、アイリーンと名乗る女性から、熊本県水俣市にあるチッソ工場が海に流す有害物質によって苦しむ人々を撮影してほしいと頼まれる。水銀に侵され歩くことも話すこともできない子どもたち、激化する抗議運動、それを力で押さえつける工場側──そんな光景に驚きながらもシャッターを切り続けるユージンは、チッソの社長からのネガを大金で買うという申し出を拒否したために危険な反撃にあう。追い詰められたユージンは、水俣病と共に生きる人々にある提案をし、彼自身の人生と世界を変える写真を撮る……。

ユージンは、アイリーンと水俣市に暮らしながら3年間にわたり水俣病の問題を取材し、75年にアイリーンと連名で写真集「MINMATA」をアメリカで出版すると、世界中で大反響を巻き起こす。翌年、ロバート・キャパ賞を受賞した。

この原案となった写真集「MINAMATA」は長らく絶版となっていたが、9月7日に約40年ぶりに再出版された。

『MINAMATA―ミナマタ―』は、9月23日に公開される。