【週末シネマ】日本映画界最高齢監督が訴える反戦への強いメッセージ
大切な人が死ぬこと、あるいは大切な人を残して死ぬことを望む人など誰もいない。けれどもひとたび戦争が起これば、人を殺したり殺されたりすることが賞賛される。そして後に残るのは、大切な人を失った家族の悲しみと困窮だ。どんな美辞麗句で飾ろうとも変わらない戦争の本質を、生き残った人々の視点から描いたのが、99歳の新藤兼人監督の『一枚のハガキ』だ。
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戦争末期に徴収された100人の中年兵たち。くじ引きにより国内の施設に赴任することとなった主人公は、激戦地に赴任する1人の男から妻への伝言を頼まれる。夫のいない空しさを綴った妻からのハガキを見せながら彼は、そのハガキを読んだことを伝えてほしいと言うのだ。返事を出しても、本当に伝えたいことは検閲で消されてしまうから……と。
一方、夫の帰りを待ちわびていた妻は、ある日、夫が戦死したという知らせを受ける。その後、義父母の願いを受けた彼女は夫の弟と再婚するが、その弟も間もなく徴兵され戦死してしまう。
相次いで義父母も亡くし、ついにたった1人となってしまった彼女の元へ、終戦後、主人公が訪ねてくる。運よく生き残った主人公だったが、彼もまた戦争によって家庭が崩壊。さらに、くじ引きで生き残ってしまったことに深い負い目を感じていた。
どうしようもない虚無感を抱えた2人がいくつかの出来事を通じて心を通わせ、再生していく様子が描かれていくのだが、彼らの悲劇は決して特殊なことではなく、当時、ほとんどの国民が戦争によって生活をズタズタにされたのだ。暴走する軍部に引きずられて始まってしまった愚かな戦争が巻き起こした結果だと思うと、映画とはいえ、やるせないような無念さと行き場のない怒りが込み上げてくる。
新藤監督は自らの体験をもとにこの映画を作り上げたという。昨年の記者会見で彼は「戦争はやってはいけない。戦争は人間を抹殺しますから、いかなる理由があっても絶対にやってはいけません。1人の兵士が戦死すると、その後方にいる家庭も破壊されます」と語った。
日本映画界の最高齢監督である彼は、本作を最後に監督を辞めると宣言している。独立プロの監督として地を這うような苦労をしながら映画を作り続けてきた新藤監督。本作に込められた、新藤監督の最後のメッセージを強く心に刻みたい。
『一枚のハガキ』はテアトル新宿ほかにて全国公開中。(文:ムビコレ編集部)
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