【週末シネマ】北海道が生んだスター大泉洋がススキノを駆け回るハードボイルド!
好きな俳優がいる。話題作『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』では、情熱を取り戻していくチーム監督を演じ、京極夏彦の小説をアニメ化した『豆腐小僧』では、ちょっと情けない死神の声を嬉々とあてていた。そう、北海道が生んだスター、大泉洋だ。
・[動画]『探偵はBARにいる』予告編
・【週末シネマ】生命と愛の偉大さを訴えるネイチャードキュメンタリー
彼ほど、どこ出身だと皆が知っている役者もいないだろう。北海道の某ローカルバラエティがきっかけで、全国区へとのし上がった大泉。ハードボイルドな魅力たっぷりの主演作『探偵はBARにいる』では、北海道への溢れんばかりの愛と感謝を詰め込んでいるように思える。
とはいっても、何も大泉がひとりで熱くなっているわけではない。冒頭から始まる、スタントなしの激しいアクションシーン! まず、ここで、ガシッと心を掴まれる。「お、これはイケるぞ」と。東直己の「ススキノ探偵シリーズ」第2作を下敷きにした本作。橋本一監督、脚本の古沢良太、共同脚本・プロデューサーの須藤泰司と、あの「相棒」シリーズを手掛けた面々が集まっており、実際、先にはイケる展開が待っている。
大泉演じる“探偵”には名前がない。ポンコツ車の運転手兼相棒の高田(松田龍平)と共に、探偵業、といっても予想がつくとは思うが、いわゆる便利屋家業を細々と続けている。酒好きな“探偵”行きつけのBAR(一枚板のカウンターが素晴らしく、隅々にまで気を配った内装もオシャレ)にかかってくる黒電話で依頼を受ける日々だ。
その依頼も、BARにきた1本の電話が始まりだった。謎めいた女からの依頼。“探偵”はそこに危ない匂いを嗅ぎ取るが、同時にその声から“美人臭”まで嗅ぎ取って、依頼を引き受けてしまう。そして、命を狙われるハメに。なのに怖気づくどころか、“探偵”は一層、奮起! 依頼の背後にある真相を突き止めようとする。
雪のなか、“探偵”は走る。相棒の高田と、スノーモービルで逃げる。物語もさることながら、まず、その画がいい。普段はぼ〜っと何も考えてないようでいて、実は空手道場の師範代なる高田を演じる松田と、大泉の息も、驚くほどに合っている。周囲を固める役者たちにも味がある。大物実業家に西田敏行、その若き妻に小雪。さらに、こうした作品に必須なのが悪役。高嶋政伸が、まさに怪演の域でイッちゃったキャラクターを魅せてくれる。
ただ誉めているようで何だか申し訳ないが、本作は、最近出会ったなかでも群を抜いて「実に映画的な」ノンストップで楽しむことができるエンターテインメント作品なのだ。そして何より、酒好き、女好き、かつハードボイルドな雰囲気を漂わせる大泉がカッコいい。「大泉といえば、『ゲゲゲの鬼太郎』のねずみ男だよね」という印象しかない方には、ぜひとも本作でイケてる彼に射抜かれていただきたい。
余談だが、アンケートで「ルパン三世」をやって欲しい役者を募ると大泉の名が挙がるとか。筆者も本作を見て、「あぁ、この大泉に、カッコいい『ルパン三世』を演って欲しいなぁ」と思った。クライマックスには切なさも待っている『探偵はBARにいる』。十分な余韻も持ち帰れる佳作である。
『探偵はBARにいる』は、9月10日より全国公開される。(文:望月ふみ/ライター)
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