“恋愛小説の神”と異名を取る『きみに読む物語』の原作者、ニコラス・スパークスの大ベストセラーを映画化したのが『親愛なるきみへ』だ。そう聞いて「見てみたい」と思った方は、この文など読まなくてもすぐに劇場に向かっていただきたい。期待通りの珠玉のラブストーリーに心の舌鼓を打つことだろう。
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しかし、ニコラス・スパークス原作と聞いて、自分には関係ないとそっぽを向く方こそ、ちょっと耳を傾けてほしい。私こそ後者のタイプで、ましてや本作は肉体派俳優のチャニング・テイタム(『G.I.ジョー』)と、今をときめくアマンダ・セイフライド(『マンマ・ミーア!』)の美男美女スター共演とくれば、ますますもって食指は硬直してしまう。
だが、単にきれいごとを並べた上っ面なラブストーリーで終わらず、人生を感じさせる、きちんと血の通った物語に仕上がっている。温かい本物の涙まで流れたほどだ。
確かに大筋は、特殊部隊の兵士ジョンとお嬢様の女子大生サヴァナが運命的に出会いながら、距離と時間という障害が2人の愛に影を落とすというもの。どうも使い古された陳腐な内容に思えるが、すんなりと心に入ってきて主人公たちに想いを重ね合わせていくことができる。
監督は『ギルバート・グレイプ』や『サイダーハウス・ルール』の名匠、ラッセ・ハルストレム。世の中からはみ出したり人生に迷う人々を、否定も肯定もせずに温か〜く見つめる彼の眼差しにあらがえる強者などいないだろう。見る者を素直にさせる魔法使いとでもいうべきか、今回も、距離や時間というありがちな壁に立ち向かう恋人たちに純粋に感動してしまうのだ。
自然を生かした映像美もハルストレム監督の魔法のひとつで、本作でもサウスカロライナの優美な海辺の風景に心洗われるが、やはりリアリティある多面的な人間描写が彼の真骨頂だろう。主人公の兵士ジョンはただのタフな正義漢ではなく、感情表現や対人関係が苦手な弱さがにじみ出ていて、彼がポジティブで聡明なサヴァナには心開いて恋に落ちる心情も自然に伝わってくる。
そして、彼の人格形成に大きく関わっているのが父親の存在だ。父親は軽度の自閉傾向があるようでコイン収集に異様な執着を見せ、感情を表に出さないが息子への愛があふれている。ジョンは父親を重く感じつつも愛情を持ち、この父子の複雑な愛情も感動を盛り上げるのに一役買っている。
また、凡庸に見えるストーリーもいい意味で予想を裏切ってくれる展開がある。ここにも人生の残酷さや奥深さ、そして誰もが人生を懸命に生きていることを感じさせてくれるのだ。
手紙が繋ぐ恋愛とはいえ、あまりに印象に残らないタイトルに流されず、ぜひ心に留めておいてほしいラブストーリーである。
『親愛なるきみへ』は9月23日より新宿ピカデリーほかにて全国公開される。(文:入江奈々/ライター)
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