【週末シネマ】五感が失われていく奇病に陥った男女をシンプルな映像で描いた傑作!
あーあ、新年早々、暗い映画を見ちゃったな……。映画の途中までは、そんな気分だった。舞台はスコットランド。原因不明の奇病が世界各地で爆発的に拡がり、発症した人は激しい悲しみに襲われた後、嗅覚を失ってしまう。何らかの感情的な発作により五感がひとつずつ失われていく恐ろしい病により、世界は大パニックに陥る。そうした状況で出会った男女を描いた作品が『パーフェクト・センス』だ。
“謎の病気で世界中が大パニックに”と言っても、最新技術の視覚効果をバンバン使って人々が逃げまどう姿を巨大スケールで描いた作品ではない。この映画は、人類の非常事態下で恋に落ちた男女の心情をシンプルな映像でみせていく。
女性と本気で付き合えないモテ男でシェフのマイケル(ユアン・マクレガー)と、恋愛に飛び込まないように自制心を働かせている感染症専門家のスーザン(エヴァ・グリーン)は、五感が失われていくという状況に陥って初めて、自ら心につくった垣根を越え、本当に自分が求めるものに意識を向けていく。個人に焦点を当てているからこそ、一緒に寝ていても嗅覚を失ったがために相手のにおいを知ることができない、という絶望感がひしひしと伝わってくる。逃れられない恐怖が、絵空事ではなく、じんわりと身に迫ってくるのだ。
奇病のせいとはいえ、自分が発狂して叫んだ汚い暴言が自分の耳に聞こえた最後の音だとしたら本当にイヤだ。聴覚が失われる前に聞く音は、きれいな音や愛情に満ちた声がいい。そんなことを考えてしまう陰鬱なストーリーなのだが、そうした状況でも人々は生きているわけで、落ち着きを取り戻した人々はめちゃくちゃになった街の掃除を始め、マイケルは嗅覚と味覚がなくても楽しめる新しい料理を作るために厨房に戻っていった。その姿こそが真の人間なんだな、と心が温かくなった。絶望のなかでも一筋の希望を捨てずに行動できることが人間の善良さであり素晴らしさなんだ、ということをデヴィッド・マッケンジー監督は伝えたいのだろう。見終えた後に心に残ったのは、マイケルが言った「Life goes on (=人生は続いていく)」という言葉だった。新年早々いい映画を見たな、と思った。
余談だけれど、ユアン・マクレガーが人気者になり始めた頃、“やたらとお尻を出す俳優”と言われていた。『ピーター・グリーナウェイの枕草子』はもちろんのこと、ストーリー上そんな必要などどこにもない『マネー・トレーダー 銀行崩壊』でも、記憶が確かなら、酔って騒ぐシーンでお尻を出していた。そんなユアンもイギリスを代表する大スターとなり40歳を迎えたが、この作品でもしっかり出していました! なんだか、ちょっと嬉しかった(お尻が見たいわけじゃなくて、大スターになっても変わらないところがいいね、という意味)。
『パーフェクト・センス』は1月7日より新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開される。(文:秋山恵子/フリーライター)
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