【週末シネマ】あえてのアナログ感が独自の世界観を生んだ『BUNRAKU ブンラク』
「GACKTハリウッド初進出作」との謳(うた)い文句を聞くと、絶対に見たい!というファンと、それがウリだけの作品か、とアンテナから外してしまう人とで2極化するだろう。しかし『BUNRAKU ブンラク』は、GACKTファンはもちろんのこと、映画ファンも「ナニナニ、面白いじゃん!」と興奮できる、2週間限定上映が何とももったいない力作だ。
舞台は人類が戦争を繰り返した後の世界。ある街に時を同じくして、若き流れ者と、京都からの侍ヨシがやってくる。街の頂点にはニコラという残虐な男が君臨し、“キラー”と呼ばれる凄腕の側近を置いて、街を掌握していた。彼らを倒すべく立ち向かう数々の挑戦者も“キラー”たちの前では赤子をひねるように倒されるしかなかった……。
“京都から来た侍ヨシ”に扮しているのが、GACKT。ハリウッド映画初出演にして、豪華共演陣のなか堂々の準主演を飾っている。流れ者役で主役を張るのは、『シン・シティ』のジョシュ・ハートネット。流れ者とヨシの強さに目をつけニコラに対抗させようとするバーテンダーに『ナチュラル・ボーン・キラーズ』のウディ・ハレルソン、ニコラ役に『ヘルボーイ』シリーズのロン・パールマン、キラーNo2に『トレインスポッティング』のケヴィン・マクキッド、ニコラの情婦アレクサンドラに『ゴースト/ニューヨークの幻』のデミ・ムーアと、一流の役者揃い。そんななか、GACKTはガチンコの殺陣アクションを披露し存在感をアピールしている。
GACKTに声がかかったのは、監督がNHK大河ドラマ『風林火山』を見て上杉謙信に惹かれたから。本作での侍GACKTもなかなかキマッていて、充分に監督の要求に応えている。しかし「なぜ“BUNRAKU”? 日本の文楽のことだよね!?」と思う人も多いだろう。そう、BUNRAKUとは文楽のこと。監督が文楽からインスパイアされた作品だというが、特別に文楽っぽい何かが登場するワケではない。だが、そこに何か共通点を見出すならば、全てが舞台上で起こっているような雰囲気が漂っていることだろう。まず面白いのが、この世界には銃が存在しないこと。アクションものなのに銃のドンパチはナシ。これはなかなか新鮮だ。
また、舞台となる街は巨大なスタジオにイチから作り上げられており、ほぼ全てが紙(!!)でできている。ニコラが住む街から離れた遠い山はCGで処理されているものの、街の作りはほぼ紙。照明に凝っていることもあり、浮世離れした独特の世界観が終始貫かれている。具体的に、いくつかこだわりのシーンを挙げてみよう。
警察に捕まったヨシを流れ者が助けに行く一連のシーン。警察署の屋上からヨシのいる階まで、敵を倒しながら進む流れ者を、カメラは1カットで追う。観客は、流れ者が階段を下っていく様を、真横からキレイに眺めることができるのだが、実は警察署のセット自体がパックリ半分に割れた状態で作られているのだ。それを流れ者が下るに従って、カメラも下に移動しながら撮影しているのである。ほかにも街中を車が激走するシーンがあるのだが、これはつまり、紙の街の中を車が走っていることになる! こうしたひと工夫加えられた画が随所に登場する。
要はもっと簡単な撮影法があるにも関わらず、アナログ感を出すためにと“あえて”さまざまな技術を駆使している画の連続なのだ。わざわざ、なぜ? などと野暮なことを聞いてはいけない。そのこだわりは十分に映像に結実しているのだから。気合いの入ったアクションももちろんだが、本作で楽しむべきはこうした撮影法から生まれた、本作でしか味わえない空気感。堪能すべし!
『BUNRAKU ブンラク』は2012年1月14日より新宿ピカデリーほかにて全国公開される。(文:望月ふみ/ライター)
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