【週末シネマ】34歳の沖田修一監督、2作目『キツツキと雨』はもはや熟練の域!?

『キツツキと雨』
(C) 2011「キツツキと雨」製作委員会
『キツツキと雨』
(C) 2011「キツツキと雨」製作委員会

壮大にして閉ざされた白銀の世界から、緑溢れる山間の村へ――。独特のテンポで、切なさや温かみをユーモアに包んで優しく届けた『南極料理人』。この商業デビュー作で、ロングランヒットを飛ばした沖田修一監督の待望の新作は、ベテラン木こりと新人映画監督の出会いから始まる『キツツキと雨』だ。

[動画]『キツツキと雨』予告編

原作のあった『南極料理人』とは違い、沖田監督自身も共同脚本をつとめた完全オリジナルの本作。3年前に妻を亡くし、息子と2人暮らしの木こり・岸克彦を役所広司が演じ、ゾンビ映画の撮影隊として村にやってくる新人監督・田辺幸一に小栗旬が扮する。

幸一は初の監督業にビビりまくっている青年。助監督への口癖は「すみません……」。表情にも覇気がなく、緊張で睡眠もとれていないのか、あくびの連続。彼らとたまたま知り合った克彦は、よもや幸一が監督とは思わず、助監督に「あいつ、クビにしたほうがいいよ」と声を掛ける。だが、ひょんなことから田辺組の手伝いをすることになった克彦は、次第に映画製作の魅力にはまっていき、自信に欠けていた幸一の背中を押していく。

出会いと変化の物語。テーマとしてはごくありきたりだ。物語の基本といってもいいだろう。その普遍的なテーマを、沖田監督は34歳、2作目にして熟練の味さえ感じさせる細やかさと安定した演出で魅せていく。

印象的なシーンがある。昼、弁当を一人離れて食べている幸一の横に克彦が座り、話しかける。「歳はいくつだ?」「25です。若いって言いたいんすか?」と答える幸一に、克彦はすぐ傍に見える松の木を指さす。「あれが、だいたい25年。その3本先が俺と同じ60年てところだ。どうだ?」「うーん、よく分からないっすね」と感想を漏らす幸一に克彦は言う。「松は一人前になるのに100年はかかる」

何気ない場面だが、自分より年上のスタッフや俳優たちに囲まれ、初めての監督業で押しつぶされそうになっている幸一のプレッシャーが、ふっと軽くなる感じが伝わってくる。同様に、さりげないながらも印象的なシーンを、本作は積み重ねる。

物語を回す題材に映画製作が選ばれていることも魅力のひとつだ。観客は映画製作、しかもゾンビ映画の裏側をのぞき見ながら、克彦と一緒に大人の超真剣なお遊びにハマっていく。さらに克彦と、その息子・浩一(こちらも名前はコウイチ)との関係にも心を動かされる。幸一には人生の先輩として広い懐で接する克彦だが、自分の息子とは上手くいっていない。だが幸一との触れ合いによって、浩一への見方にも変化が生じる。本作でも可笑しみやペーソス、悩み、喜びといろんな感情を、含ませてみせた沖田監督。ますます好きな監督のひとりになった。拍手!

最後に。木こり、映画製作、共通して仕事をストップさせてしまう“雨”。だが、それもまたいいではないか。いわば、それは小休止。まあ、押している現場で小休止などと呑気なことは言っていられないのが現実だろう。しかしそれでも、今まで木こり一筋できた克彦が映画製作という非日常を体験した時間、幸一が映画監督としての重圧に、克彦の支えで自分自身の足で立てるようになった時間。“雨”は、そうした彼らの人生の中でのほんの一部分でしかない、でも貴重な時間とも、重なるように思えるのだ。そして彼らは、雨上がりの晴れ渡った空を見つめ、再び明日への一歩を踏み出していく。雨だって悪くない。私はそう思う。

『キツツキと雨』は2月11日より全国公開中。(文:望月ふみ/ライター)

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