先に断っておくが、ずばり『SHAME -シェイム-』というタイトルの本作はまったくもって衝撃的ではなかった。もちろん、これは良い意味でだ。
・激しい性描写が話題の問題作『SHAME』がゴールデングローブ賞にノミネート!
本作は、セックス依存症の男の性を赤裸々に描き、本国アメリカでは最も厳しい上映規制であるNC-17(17歳以下鑑賞禁止)となり、日本ではボカシを入れてなんとかR18+(18歳未満鑑賞禁止)で公開が実現した超過激作という触れ込みだ。
さぞかしセックスシーンをこれでもかこれでもかと見せつけ、うんざり辟易させることによって問題性を浮かび上がらせる手法だろうと、それなりの覚悟を持って臨んだ。しかし、なんの、なんの、えげつない不快感はなく、それどころか切なさと温かみさえ感じさせる人間ドラマではないか。
確かに、覚悟を持って見たというのりしろと、私がたいていのことでは動じないオバサンであることは勘案してもらったほうがいいだろう。『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』のマイケル・ファスベンダーってカッコイイから彼が主演の本作も見てみようという、レイティングぎりぎりの娘さんならある程度ショックかもしれない。しかし、話題作りも多分にある“赤裸々なセックス描写の超過激作”という触れ込みに引いてしまい、見逃すなら損というものだ。
主人公のブランドンは洒落たマンションに住むエリートのホワイトカラーで、何不自由なく生活し、仕事以外の時間はただただセックスに費やしている。商売の女性相手やゆきずりの女性、アダルトサイトやマスターベーションまでさまざま。排泄欲と言えるほどの愛情を介さないセックスは扇情的なものではなく、淡々とスクリーン上を通過してゆく。おそらく無意識にしろ、彼は感情を麻痺させるべき境地に至り、セックス依存によってギリギリのところで人生をサバイバルしているのだろう。
別にセックスを悪徳と思ったりはしない。たとえ、それが愛のない性欲によるセックスであっても。しかし、主人公は何かと向き合うことを恐れてセックスに逃げているのであり、彼が心身ともに健全とは到底思えない。さらに罪悪感なのか自暴自棄なのか、彼はまるで自分に罰を与えるかのように行為をエスカレートさせてゆく。
でも、そんな虚ろな目をした主人公を哀れみつつ、「これが自分で選んだ道なら仕方なし」と突き放してしまえないのは、彼にまだ人間味ある感情が残っているから。自宅に妹が転がり込んできても追い出せないし、妹の歌に涙も流せば、普通の恋愛もしようとし、その姿にはいじらしさも漂う。また、妹が主人公とは対照的な感情垂れ流し型で自らの感情に振り回される厄介な人物とあって、この両極端な兄妹像に隠されたドラマも感じさせられるのだ。
すべてにおいて説明を排除した演出で、セックス依存の男の生活を見せるだけでありながら、なおかつ不快感も与えずに巧みに感情移入させてしまうのだから天晴れだ。監督兼共同脚本のイギリスの新鋭スティーヴ・マックィーンの力量と、まさしく体当たりで役に挑んだマイケル・ファスベンダーに敬服するほかない。ラストは切なさとともに、これからやっと彼の人生が再生するだろうという希望さえ湧いてくる。
関係無いようだが、鑑賞後にふとマイケル・ウィンターボトム監督によるクライムドラマ『キラー・インサイド・ミー』が思い出された。『キラー・インサイド・ミー』の保安官助手には性悪説という言葉が浮かんだが、本作のブランドンには性善説を感じずにはいられない。ブランドンも生まれ持っては善の気質が備わっていたのではないだろうか。まあ、いずれにせよ、人間とは愚かな生き物で、だからこそ放っておけない魅力があるものなのだが。
『SHAME -シェイム-』は3月10日よりシネクイントほかにて全国順次公開される。(文:入江奈々/ライター)
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