『Virginia/ヴァージニア』
『ゴッドファーザー』シリーズ、『地獄の黙示録』と常人ならば身の丈に余る大作を手がける巨匠という印象が強いフランシス・フォード・コッポラ監督だが、21世紀を迎え、 “9.11”テロ発生後は長く沈黙を守り、10年の空白を経て監督に復帰した後はハリウッドの主流を外れて、自分の作りたいものを作るというスタイルを貫いている。落ちぶれた作家が訪れた小さな町で謎の少女と出会い、現在と過去をつなぐ2つの事件の真相に迫っていくゴシック・ミステリー『Virginia ヴァージニア』もそんな一作だ。コッポラは自らに、「自分のオリジナルストーリーに基づく」「私的な要素を含む」「自己資金で作る」という3つのルールを課している。
トルコのインスタンブールに旅した夜に見た夢──歯列矯正器具をつけた少女が、ある家の地下に子どもたちが埋められていると語る──に触発されたストーリーは、結末のなかった夢の続きをコッポラ自らが書き、そこに家族にまつわるエピソードも重ねたパーソナルな内容。自著のサイン会に客が誰も来ない作家のホール・ボルティモア、青白い月光の下、ゴスロリ・メイクに白いドレスで現れる謎の少女・V.、ミステリー好きの保安官、湖のほとりにたむろするヴァンパイアを自称する一団、と妖しい闇の物語を彩る役者がそろう。夢と現実が曖昧な世界でボルティモアを導いていくのは「アッシャー家の崩壊」「黒猫」のアメリカの作家、エドガー・アラン・ポーだ。
コッポラは前作『テトロ 過去を殺した男』ではヴィンセント・ギャロ、今回はヴァル・キルマー、とエキセントリックな個性で孤高の歩みを続ける俳優を好んで主役に起用する。そして前作のギャロ同様、キルマーも奇をてらわず、極めて正当派の芝居に徹することで、逆に異様性を際立たせることに成功している。そして、コッポラの娘・ソフィアの監督作『SOMEWHERE』で見せた自然な佇まいが印象深いエル・ファニングが見せる少女らしさと幽玄の美は素晴らしい。地に足の着いた安定感と浮遊する儚さ。相反する要素を自らのなかで闘わせながら、V.という少女を見事に演じている。Vが頭文字の“ヴァージニア”はポーが愛し、妻に娶った13歳の従妹の名前でもある。
ちなみにキルマー扮するボルティモアには不仲の妻がいるが、電話越しに金銭問題で延々やり合う妻を演じているのが、キルマーの元妻のジョアン・ウォーリーだったりするのも可笑しい。苦悶に満ちたゴシック・ホラーでありつつ、何でもありな、どこか人を食ったような味わいがある。映画作りを極めたコッポラがたどり着いた境地は、みずみずしく、とてつもなく自由だ。
『Virginia/ヴァージニア』は8月11日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国順次公開される。(文:冨永由紀/映画ライター)
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