『最強のふたり』
生まれも育ちも違う2人が、まさかの最強コンビになる。ありがちとも言える設定なのに、なんとも新鮮。フランスでの実話を基にした富豪の障害者とその介護人の物語は、とにかく笑えるコメディであり、やがて心に染みる感動を呼び起こす快作だ。
主人公は首から下の麻痺で車椅子生活の大富豪・フィリップと、その介護者に雇われたスラム育ちの黒人青年・ドリスだ。失業手当目的に、不採用証明書を得ようと面接に来たドリスの常識にとらわれない態度が、事故で障害を負って以来、腫れ物にさわるような扱いを受け続けてきたフィリップの目に留まる。すぐに辞めるだろう。互いにそう考えていたはずなのに、初日から価値観の衝突の連続だったのに、その差を面白がりながら、2人は主従関係の垣根を越えた友情を育んでいく。
人はつい、わかったふりをしたり、安易に同情したりする。無難に穏便に、と行動しがちな人々がいる一方、ドリスは“わからない”ことを隠さない。高尚な芸術だと言われても、自分の感性に合わなければ、正直な感想を吐いて笑い飛ばす。フィリップはその感覚を共有できる人間だ。だから2人は“最強”になれた。パリ郊外の集合住宅に大家族で暮らすドリスが絢爛豪華な大邸宅に暮らすフィリップに新しい風をもたらす。フィリップもまたドリスに未知の世界への扉を開けてやる。際どい毒舌も飛び交い、常識を無視した行動も起こす。だが、根底に優しさと尊厳がある彼らの振舞いは決して下卑たものにならない。
フィリップを演じるのは、『主婦マリーがしたこと』『愛の地獄』などクロード・シャブロル監督作や『ラウンド・ミッドナイト』で知られる演技派の名優、フランソワ・クリュゼ。シニカルな大富豪の強がりと弱さ、品位をしっかりと表現する。名優を相手に、物怖じしない開けっぴろげなドリスをのびのびと演じたオマール・シーはコメディアンとしても活躍し、本作のエリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュ監督の作品には短編、長編など3 本に出演している。愛嬌ある笑顔とダイナミックな身のこなしが魅力的で、クリュゼとの相性も抜群。一風変わったこの2 人の旅に寄り添うような2時間弱を過ごした後、きっと、生きているという歓びを噛みしめることができるはずだ。
『最強のふたり』は9月1日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国順次公開される。(文:冨永由紀/映画ライター)
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