【週末シネマ】だから映画はやめられない! 突っ込みどころ満載だがクセになる近未来SF

『LOOPER/ルーパー』
(C) 2012 LOOPER DISTRIBUTION, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
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そういえば、昨夏旅行で行った青木ヶ原の樹海で携帯電話が通じたなぁ。『LOOPER/ルーパー』のさとうきびと思われる畑に反重力の農機具が浮かぶワンシーンを見て、ふと思い出した。一見異質だが、僻地や不便な場所だからこそ最新機器が有効に活用されている。重要なシーンではないが、そんな泥臭い近未来観がたまらなくいい。“近未来のポンコツ車”が走る町もリアルに荒廃したムードが出ている。

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このすさんだ空気は荒れたさとうきび畑にも漂っており、本作にはそんなさとうきび畑がよく登場する。組織から追われる主人公が逃げ込むのもさとうきび農家だし、彼の仕事場も農地のわきだ。ルーパーと呼ばれる主人公たちは人目につかない場所で、30年後の未来から犯罪組織が送り込んできた標的を確実に始末することで報酬をもらっている。主人公のジョーは、映画版の『ブレードランナー』(82年)のほうではなく、原作の「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」の主人公のようなしがない哀愁とアンチヒロイズムをまとっている。ダークというよりどんよりとした雰囲気がいいのだ。ジョーは淡々とニヒルに仕事をこなし、30年後の自分を始末する“ループ切り”を施行できずに組織に追われた仕事仲間から、助けを求められて多少心揺れても刹那主義から外れることはない。

そんな仕事に忠実な主人公が組織に追われることとなるのは仕事をしくじったからだ。処刑場に現れた30年後の自分を取り逃がしてしまうのだ。かくしてヤング・ジョーとオールド・ジョー、組織連中の追跡&逃亡劇が繰り広げられる。しかし、30年後のオールド・ジョーを演じるのがブルース・ウィリスなものだからどうにも死なない、かどうかわからないが、とにかくオールド・ジョーは強くて不死身。とはいえ、『ダイ・ハード』路線のブルースではなくタイムトラベルつながりもあってか『12モンキーズ』(95年)の彼を彷彿とさせ、切ないメロドラマを背負っているのがまたいい。薬物とオンナでごまかしながら生きているジョーだったが、未来で愛する女性にめぐり逢い、彼女の悲劇的な運命を変えるために過去へとやってきたのだ。

ちなみに30歳若いヤング・ジョーを演じるのは『(500)日のサマー』(09年)で注目されてスターとなったジョセフ・ゴードン・レヴィット。鈴木福くんみたいな顔したレヴィットとブルースが2人1役とは無理あり過ぎと思いきや、なんと特殊メイクでもってジョセフをブルース似に仕立てている。これで一安心。って、そこまでしてというところだが、ライアン・ジョンソン監督とは監督デビュー作である『BRICK ブリック』(05年)で組んだ仲であり、本作もジョセフにあてがきしたというから彼は外せないのだ。しかし、怪我の功名というべきか、特殊メイクによる妙に眉と鼻筋が通った古風な顔立ちはジェームズ・スチュワート風の昔の西部劇俳優のような趣きがあってカッコイイ。

まぁ、アバタもえくぼかもしれないが。見る人によっては特殊メイクの違和感しか感じない場合もあるだろう。言ってしまえば、実は本作は他にもアバタが盛りだくさんある。だいたい、ルーパーってタイトルのわりにさほどループしない。きっと時間がループして謎は解決されるだろうと期待してこちらが温存しておいた疑問や矛盾は放置状態。冒頭の主人公が入れた渦巻くコーヒークリームに、不穏な未来を予感させてグッとくるゼと酔いしれたものの、30年後のオールド・ジョーが注文するのはなぜかブラックコーヒー。いや、これもきっとタイムパラドックスによるものか、はたまた愛を知って嗜好が変わったのを示唆しているのだ!

と、気づけば言い訳ばっかりしている自分がいる。だが、いたしかたない。なぜなら……理屈抜きにこの作品を気に入ってしまったから! ああ、これだから映画はやめられない。年明けから初心に帰らせてくれる作品が公開されて幸先のいい2013年だ。(文:入江奈々/ライター)

『LOOPER/ルーパー』は1月12日より全国公開される。

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