スマトラ島沖地震で被災した家族の実話をもとにした感動作『インポッシブル』。主人公のモデルとなったスペイン人女性マリア・ベロンがこの度来日し、パークハイアット東京で「“こころの復興”を考える」イベントに登壇した。
本作はバカンス中にスマトラ島沖地震に遭遇し、離ればなれになりながらも再会を信じ続けた家族の姿を描いた作品で、主演のナオミ・ワッツがアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたことでも話題となった。この日はベロンのほか、ジャーナリストの大谷昭宏、前宮城県知事の浅野史郎、30年に渡り災害救援を行ってきた日本赤十字社医療センター国際医療救援部長・槙島敏治も登壇。震災後の心のケアについて話し合った。
槙島は、災害後の心のケアには家族の結びつきや愛の力が大きな影響を持つことに言及。「一方で家族を失ってしまうと、受ける衝撃はもっともっと大きくなってしまう。いかに家族との結びつきを維持していくのかが大きな要素になってくると思います。自分の経験したことを話すまでには時間がかかるので、話せるような環境作りも必要」と語った。
また槙島は、家族を失ってしまった人々について、「親を亡くすと過去をなくす、パートナーを亡くすと現在をなくす、子どもを亡くすと未来をなくすと言われています」と話した上で、「自分だけ生き残ったことに罪悪感を感じる人、取り残されたと感じる人もいます。そんな人を支えるシステムや家族が必要。ストレスは誰もが受けることです。そこから生まれる色々な症状、時にはおかしくなってしまったのではないかと思うような症状もありますが、それは当たり前の症状で、異常なことに対する正常な反応なのだということを自分で言い聞かせることが大事です。そのなかで、そこから抜け出していく努力が必要になってくる」と訴えた。
ベロンも「被災後、何故私たちが生き残ったのかずっと問い続けていました」と当時の心境を振り返り、「ある日、息子から『何故そんな答えのない質問を繰り返しているの?』と言われたことで、『考えても意味がない』と気づき心が楽になりました。どうでもいいことに時間を費やすのは嫌ですし、これからベストを尽くして、皆さんに経験を伝えていくことが重要だと思っています」と、心理的変化を明かした。
また、白血病のために被災地に入ることができないという浅野は、自らの病との闘いを例に「初めて病気の告知を受けたとき、一時間は心が震えました。でも一時間後には闘う決心がついて楽になりました。怖い気持ちがなくなると同時に“根拠なき成功への確信”を感じたのです」と、ショックを克服した過去を告白。これにベロンもうなずき「震災前は『できない』とよく行っていましたが、震災後、私たち家族は『できない』と言わないようにしようと決めました」と精神的な強さを得たことを明かした。
映画については「(日本も)東日本大震災で被災したからこそ、より多くの人に見てほしい、そこから多くのことを学んでいきたい」と大谷。かつて横浜で暮らしたことのあるベロンは「この話はひとつの家族の話というよりは、津波のなかで立ち上がった人たち一人ひとりの話です。津波の被害のなかで立ち上がった日本の皆様にも誇りを感じていただいた上で、たくさんの人に見てほしいと思っています」と語りかけた。
『インポッシブル』は6月14日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開される。
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