【週末シネマ】爽快な高揚感を味わえる！王道を貫くロマンティック・コメディ

2013.08.17

『タイピスト！』
(C) 2012 – copyright : Les Productions du Tresor- France 3 Cin3ma - France 2 Cinema - Mars Films - Wild Bunch - Panache Productions - La Cie Cinematographique - RTBF (Television belge) (C) Photos - Jair Sfez.

その他の写真はこちら（5）

『タイピスト！』

ドジな天然系だけど、タイプライター早打ちなら誰にも負けない。そんな女の子がトップを目指し、鬼コーチのもとでスポ根ドラマさながらのトレーニングを重ねていくうち、互いに惹かれ合っていく。衝突もあれば、誤解や意地の張り合いもあり、一度は離れるが、最後はめでたしめでたし。50年代後半のフランスが舞台の『タイピスト！』は教科書通りの王道を貫くロマンティック・コメディだ。

・［動画］『タイピスト！』予告編

話の展開が読める定番だからこそ、逆にハードルは高くなる。本作は“次はどう見せるのか？”という難関を1つひとつクリアし、ヒロインと共に一喜一憂し、爽快な高揚感を味わいながら劇場を後にできる作品だ。

物語は1950年代末のフランス。女性の社会進出もようやく始まったが、ノルマンディーの小さな町に住むローズの周囲はまだ男性優位の風潮が根強い。だが、彼女は広い世界に羽ばたこうと、父親の反対を押し切って女性の憧れる最新流行の職業“秘書”を目指す。ところが、彼女は事務作業が大の苦手で失敗ばかり。「君は秘書に向いていない」と雇主のルイはバッサリ切り捨てる。だが、彼は就職面接の際にローズが見せた才能に着目、それを活かして「タイプライター早打ち大会」優勝を目指すなら、クビにしないと持ちかける。

その日からルイがコーチとなっての猛特訓が始まった。ただ文字を打つのではなく、ジョギングにピアノ・レッスン、メンタル・トレーニングまで、やることは多種多様。ルイが1人で暮らす大豪邸にローズも移り住み、24時間を共にするうち、恋の予感も漂い始めるが、地方大会からフランス大会、ついには世界制覇を目指すという大きな目標を忘れるわけにはいかなかった。

主演のデボラ・フランソワは、ダルデンヌ兄弟の『ある子供』でデビューし、その後もシリアスな作品への出演が続いていた。思いつめたような表情の印象しかなかった彼女は本作では実に溌剌としていて、表情といい動きといい、見事なコメディエンヌ。垢抜けない田舎娘がどんどん磨かれて、オードリー・ヘプバーンのようなキュートな女性に変貌していく。普段着から大会出場時の勝負服、パーティ・ドレス、どれも生地や色などディテールに凝った美しさで目を奪われること間違いなし。ルイを演じるのは『真夜中のピアニスト』や10月公開の『ムード・インディゴうたかたの日々』のロマン・デュリス。ローズの才能を開花させることに徹する男の姿を通して、一芸に秀でた者と人生を共にするということ、そこで得られる充実感を表現する。

監督・脚本はPVやドキュメンタリーを手がけてきたレジス・ロワンサル。これが監督デビュー作だが、随所に50年代の映画へのオマージュを盛り込み、時代を再現する美術、衣裳へのこだわりも素晴らしい。ただノスタルジーを振りまくだけではなく、テンポのいい演出は現代的な感覚に満ちている。（文：冨永由紀／映画ライター）

『タイピスト！』は8月17日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国順次公開中。