デボラ・フランソワ
子どもの頃から欧米のタイプライターに憧れていた。ドラマや映画に登場する、あの何ともいえぬ造形。そこからカタ、カタ、カタ、チーン!と心地よい音色と共に、紙の上に文字が刻まれていく。その憧れのタイプライターを扱った映画が、まさか心ときめくロマンス・コメディとして、なおかつ、手に汗握るスポ根モノとして登場しようとは夢にも思っていなかった。
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“現代のオードリー・ヘプバーンの登場”と本国フランス誌で称された『タイピスト!』は、1958年が舞台。片田舎に住むローズは父親の決めた結婚を拒み、保険会社の面接に向かう。当時、社会進出を始めたばかりの女性たちの多くが夢見ていた花形職業の“秘書”になるためだ。でもローズはドジでおっちょこちょいの天然キャラ。当然、面接にも受かるわけがないと思われたのだが……。彼女には特技があった。それがタイプの早打ちだ!
ただ1点のウリで面接に受かったローズは、ひとりで会社を切り盛りする社長のルイのスパルタ教育の下、「タイプライター早打ち大会」の優勝を目指すことになる。
全体を包むポップな色彩に、丸びを帯びたインテリアや車、Aラインのドレス、こうした美術を見る度に、「あぁ、昔の家具やファッションって本当にオシャレだよね。量産体制と機能重視の今より断然かっこいいよ」とつくづく思うが、その輝く舞台のなかで、さらにひと際輝いているのが、ローズを演じたデボラ・フランソワ・26歳だ。
ベルギー出身のデボラは、『ある子供』(05年)や『譜めくりの女』(06年)で好演、最近では西島秀俊、阿部寛らも出演した『メモリーズ・コーナー』(11年)にも出演しているものの、これまで本作のようなキュートな印象はなかった。だが、本作でのキラッキラぶりは、自然と笑みがこぼれるハンパない愛らしさ。ローズのキャラもあって、ヘプバーンというより、映画のヒロインというポジションへの相応しさと親しみやすさを兼ね備えた魅力を放つ。
またデボラ自身は上記の通りのキャリアを重ねてきた女優であり、本作でも愛らしさだけで勝負しているわけではない。タイプライターの早打ち、しかも世界イチを目指す物語とあって、彼女は実際にタイプの特訓を敢行。タイピングはもちろん、用紙の交換テクニック(←これが結構重要)などの練習を実に6ヵ月間も続け、劇中のタイピングシーンでは一切吹き替えが行われていない!! 本編を見れば分かるが、これには本当に頭が下がる。
さらに6月に東京で開催されたフランス映画祭2013に参加したデボラは、公式上映での舞台挨拶にも登壇。「本当にこの役を演じたいと思った。ライバル女優は殺すくらいの意気込みだったわ!」とぶっちゃけトークで観客を笑わせる、素顔もハナマルの女優さんなのだ。
題材も、これが長編初監督のレジス・ロワンサルの演出も、共演者も映像も、すべてが上手く機能している本作だが、ヒロインがデボラでなかったら、ここまで愛すべき作品にはならなかっただろう。
過去には大ヒットロングラン映画『最強のふたり』も受賞したフランス映画祭観客賞を受賞した『タイピスト!』。大ヒット間違いナシの本作で、デボラが一気にファンを増やすのは必至。ハラハラドキドキの恋の行方やオリンピック並のタイプライター早打ち大会の結果は、ぜひスクリーンでお確かめあれ。(文:望月ふみ/ライター)
『タイピスト!』は8月17日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国順次公開される。
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