【あの人は今】ギラついた若さを放つ! 55歳となった『フットルース』元アイドルの変遷
ケヴィン・ベーコン
あの人はいま、と思うほど、どこかに隠れていたわけでもない。本国アメリカでは年に数本の出演作があり、兄と一緒にやっているバンド「Bacon Brothers」では来日公演までしている。だが、日本のスクリーンに登場する機会がめっきり減ってしまったから? そういえば見ないね、という声を聞くようになった矢先、ケヴィン・ベーコンが主演をつとめるテレビシリーズ『ザ・フォロイング』の放映がWOWOWで始まった。
・【この俳優に注目】精悍なルックスながらも、得難い個性のクセ者俳優
ケヴィンが一躍その名を知られたのは84年の主演作『フットルース』。都会から保守的な田舎町にやって来た高校生が、ダンス禁止令を敷く大人たちを説得してプロムを開催する。劇中に流れる曲の数々がMTVでヘビーローテションになり、映画そのものが社会現象になると同時に、ケヴィンも大ブレイクを果たした。当時はトム・クルーズが若手スターとして頭角を現してきた頃。アイドルといえば20歳前後が常識だったが、1958年生まれのケヴィンはすでに26歳。青春スターの王道はガラじゃないと悟ったのか、30歳を迎えた頃から個性的な風貌が生きる性格俳優へと舵を切った。
ここで俳優として一気に吹っ切れた感がある。正当派路線に未練を残した20代後半の低迷が嘘のように、活き活きとしてきたのだ。男娼を演じた『JFK』(91年)、『ア・フュー・グッドメン』(92年)を経て、メリル・ストリープ共演の『激流』(94年)の悪役でクセ者俳優として開花した。鬼才ポール・ヴァーホーヴェンと組んだ『インビジブル』(00年)、製作総指揮も兼ねた『ワイルドシングス』(98年)やコリン・ファースと共演の『秘密のかけら』(05年)などで凄まじい怪演を連発。とんでもなく凶悪なのに、どこか隙がある。悪魔の囁きに負けてしまうような弱さ、誰にも知られたくない、自分の内にあるどす黒い部分を見るような奇妙な共感を抱かせるのだ。
善人のなかに潜む悪意、悪人が持つ繊細な心を演じ、そこから人間の弱さを表現するのが真骨頂のケヴィンが初めて主演するテレビシリーズ『ザ・フォロイング』はカリスマ殺人鬼と元FBI捜査官の対決を描く。一昔前なら、獄中から信奉者を操って脱獄したカリスマ性あふれる殺人鬼・キャロルを演じていたに違いない。だが、彼が演じるのは、かつて逮捕した殺人鬼の行方を追うため、現場に呼び戻された元FBI捜査官のハーディだ。逮捕時にキャロルに刺され、心臓にペースメーカーを埋め込み、いまは酒浸り。善悪のグレーゾーンで揺れ動く悲哀に満ちた男という役どころは、これまでのキャリアの集大成と言えるかも。
7月に55歳の誕生日を迎えたが、昔と変わらず、顔も体つきもシャープなシルエット。確かに高校生役としては老けていた。だが、その後の彼はある種、ギラついた若さを持ち続けている。絶対に枯れない。その佇まいは、解ったような顔をせず、いつまでも悪あがきを続ける人間臭さそのものを表すようで、愛おしい。(文:冨永由紀/映画ライター)
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