【あの人は今】スキャンダルで失墜するも、高い演技力で踏みとどまったイケメン俳優
ロブ・ロウ
マイケル・ダグラスが、ド派手なパフォーマンスでラスベガスに君臨したピアニスト・リベラーチェを熱演し、その恋人でアシスタントとしても彼を支え続けた男をマット・デイモンが演じる『恋するリベラーチェ』。スティーヴン・ソダーバーグが監督をつとめ、先頃発表されたエミー賞で作品賞、主演男優賞など11部門受賞したこの話題作の見どころの1つが、美容整形外科医を演じるロブ・ロウだ。
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いつまでも若く、美男でいたい。好きになった男の顔を自分そっくりにさせたい。常人の理解を超えたスターの望みに応える医師ジョン・スターツも、その外見からしてすでに相当胡散臭い。時代は70年代後半から80年代前半。サラっとした長めの髪をしっかりブローして、たぶん自分の顔でもいろいろ実験している感じで、蝋人形のような肌質の顔の表情が全然動かない。リフティングで左右に引っ張られて細くつり上がった目で、少しあごを上げながら「どう? 今度はこれ試してみる?」とマット扮する青年スコットにいろいろ勧める姿はいかがわしさ満点で、まさに悪魔の囁きを体現している。
1983年の『アウトサイダー』で注目を浴び、 “ブラット・パック”と名づけられた同世代の俳優たちのなかでも特に女の子からの人気が高く、青春スターの筆頭格だったロブは現在49歳。顔のしわなどに時間の経過を感じさせつつも、かなりきれいに歳を取ってる。今ではテレビシリーズ『ザ・ホワイトハウス』の大統領官邸の広報部次長、サム・シーボーンの印象が強いかもしれない。素顔の彼も、ツイッターのアカウントで「好きなもの」の1つに政治を挙げていて、20代の頃から支持政党である民主党の集会などにも積極的に参加していたが、そこで大失敗をやらかし、彼の進路は大きく変わった。
人気がピークに達していた88年、ジョージア州アトランタで民主党全国大会に参加した際のことだ。大会前夜、バーで知り合った未成年の少女と関係を持ったことが発覚、現場を撮影したビデオテープが流出したのだ。今ではリンジー・ローハンをはじめ、若手スターは世間を騒がせてなんぼ的なところもあるが、25年前はまだそうはいかず、このスキャンダルにファンの女の子たちはドン引き。ロブにさわやかな青年役が回ってくることはなくなった。
といっても、そのままフェイドアウトはせず、悪名を逆手に取るような役に挑戦するようになった。エリート青年を悪の道に引きずり込む享楽的な男を演じた『バッド・インフルエンス 悪影響』(90年)はあの事件がなければ、共演のジェームズ・スペイダーとの配役は逆だっただろうと思わせる。青い瞳に白い歯がまぶしい笑顔なのに悪党。完璧な美貌のなかにかすかに黒い部分が見え隠れする、アラン・ドロンに良く似た雰囲気だ。そういえば、スキャンダル以前の主演作『マスカレード 甘い罠』(87年)は、ストーリーもドロンの代表作『太陽がいっぱい』にどこか似ている。だが、新境地開拓と言えるほどの成功は収められず、次第に脇に回ることが増えていった。救いだったのは、無駄にイケメンなのではなく演技力があったこと。アクションやホラーから、『オースティン・パワーズ』シリーズなどのコメディまで、幅広いジャンルに対応し、二枚目の容姿とのギャップで存在感を示すことでハリウッドに留まり続けた。
『ザ・ホワイトハウス』で再び浮上した後、2011年に出版した自伝「Stories I Only Tell My Friends(原題)」で文才も発揮した。かつて、共演女優からモナコ公国のステファニー王女まで次々と浮き名を流したプレイボーイは、不遇時代の90年に以前からの知り合いだった映画スタッフの女性と結婚。息子2人をもうけ、幸せな家庭を築いている。
最新作は、アメリカで11月10日に放送されるTV映画『Killing Kennedy(原題)』。第35代アメリカ大統領のジョン・F・ケネディ暗殺から50年、事件当日の様子から後日談をまじえて描いたノンフィクション「ケネディ暗殺 50年目の真実」(講談社)の映像化作品で、ロブは尊敬する憧れの人、JFKを演じている。(文:冨永由紀/映画ライター)
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