【週末シネマ】ジャームッシュが放つ、ロマンティックでクールで可笑しなラブストーリー

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』
(C) 2013 Wrongway Inc., Recorded Picture Company Ltd., Pandora Film, Le Pacte &Faliro House Productions Ltd. All Rights Reserved.
『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』
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『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』
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『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』
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『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』

ジム・ジャームッシュが手がける吸血鬼の映画。それも、いわば遠距離恋愛ものとして幕を開ける。ロマンティックでクールで、抜けのある可笑しさ。とてもジャームッシュらしい、4年ぶりの新作だ。主演は近年の彼の作品の常連であるティルダ・スウィントン、そして『マイティ・ソー』や『アベンジャーズ』のロキ役で人気のトム・ヒドルストン。背が高く、細身の2人がイヴとアダムと名乗り、もう数百年は生き続けている吸血鬼を演じる。

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アダムはアメリカのデトロイトに暮らしている。隠遁生活を送る伝説のロック・ミュージシャンというのが世を忍ぶ仮の姿。目立ちたいのか目立ちたくないのか、とちょっと笑ってしまう。彼には熱烈な信奉者の青年・イアンがいて、稀少なヴィンテージ・ギターや必要な物の調達係として便利屋のように使っている。外に出るのは、新鮮な血液を横流しする医師のいる病院に赴くときだけ。それ以外は他者との接触を絶ち、部屋に籠もって怪しげな機械や音楽の制作に明け暮れている。

そこに、モロッコのタンジールにいる妻のイヴから連絡が来る。ブラウン管の受像機を使用したお手製のテレビ電話での会話も、どこか外したユーモアが漂い、ただただ可笑しい。アダムと同じく太陽を避ける彼女は夜間便を乗り継いで、はるばるデトロイトまで訪ねてくる。プラチナブロンドのイヴ、黒髪のアダムが並ぶ立ち姿の隙のなさ、語り合う声の美しさに目と耳を奪われる。

再会した2人は積もる話に明け暮れる。バイロンやシェリーとの交流、16世紀の作家で今は彼らの仲間であるクリストファー・マーロウのこと、音楽や文学について、チェスに興じながら、血液を固めたアイスキャンデーをかじりながら、語り明かす。この世には吸血鬼のほかにいるのはゾンビ(=普通の人間)ばかり。そんな輩の汚染された血を飲めば、永遠のはずの命も落としかねない。時代の進歩という功罪が自分たちの存亡さえ脅かすという悪い冗談を嘆く。鈍感な人間の方がよっぽど怪物じみているということか。

それにしてもスノッブな2人だ。飛行機を予約するときに、ちょっと躊躇してから「スティーヴン・ディーダラス」「デイジー・ブキャナン」と名乗ったりする。レコードプレイヤーが奏でる音楽も、壁にかかった写真も、すべてにちょっとした目配せがある。

そんな2人きりの世界をぶち壊しにやって来るイヴの妹・エヴァの俗物ぶりも強烈だ。姉夫婦の理想の空間をひっかき回す展開に、こちらもなぜかスカッとしたりする。『ジェーン・エア』『イノセント・ガーデン』などで見せた硬質な美しさを吹き飛ばし、ヤンチャなL.A.ガールのヴァンパイアを演じるミア・ワシコウスカ、得体の知れない彼らに惹きつけられていく“ゾンビ=人間”のイアンを演じるアントン・イェルチンという演技派の若手2人の貢献度も高い。

エヴァの到来によって嵐が巻き起こり、永遠の命をもてあましながら彷徨い続ける恋人だちの物語が再び動き出す。愛し合う者たちだけが生かされる。懊悩と妥協と飢餓と恍惚。不死を生きる、選ばれし者たちの心情が凡人にもちょっとは理解できた気がする。斜に構えても、真っ正面からどっぷり浸かっても、どのように接しても堪能できるラブストーリー、コメディだ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』は12月20日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開される。

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