2013年に公開された外国映画、特にハリウッドの大作になぜか日本を題材にした作品が目立った。どの作品もそれなりに、というか、かなり日本について研究した努力はうかがえる。が、そこから作者の主観やイマジネーションをふくらませた創作になると、やはり不思議の国ニッポンが登場するのだ。
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「忠臣蔵」になぜこだわる?──『47RONIN』
まずは現在も公開中の『47RONIN』。日本人には「忠臣蔵」としてもお馴染みの赤穂浪士の吉良邸討ち入りを、大胆にもSFファンタジー映画に脚色した。主君の乱心→刃傷沙汰→切腹で浪人となった家臣たちの仇討ち計画という大枠は残したが、その中ではキアヌ・リーヴス扮する日英ハーフの主人公がモンスターや妖術使いとの戦いを繰り広げ、お姫様との悲恋もある。
架空の人物である主人公・カイや、柴咲コウ扮するヒロインで浅野内匠頭の娘・ミカ、菊地凛子扮する吉良上野介の側室で妖術をあやつるミヅキをのぞけば、登場人物の名前はほぼ史実通り。だが、彼らの着ているものも髪型も、城や町並みなど、意匠のすべてがいつの時代のものともつかず、無国籍風。かろうじて男たちの地味な配色の着物姿はそれっぽいが、髪は武士の時から月代(さかやき)なし、場合によっては髷(まげ)すらなしの浪人スタイル。ミカやミヅキの“キモノ”姿は竜宮城の乙姫さまのようだ。
実は、それはそれで見ていて楽しい。もう間違い探しとか、そういう段階をはるかに越えた次元なのだ。ところが、忘れた頃に「元ネタは四十七士の討ち入りです」という念押し的描写が入る。これが水を差すのだ。こんなに違う風体にしておいて、なぜこだわる? だが、大石内蔵助を演じる真田広之は長いキャリアで培った時代劇の素養を活かし、キアヌも粛々とその姿から学び取ったようで、描かれる武士の矜持(きょうじ)だけは異様に正統的。このちぐはぐ感は、世界で幅広く受けるための汎用エキゾティズム描写と侍魂へのリスペクトに引き裂かれた結果と言えそうだ。
作り手の日本愛が伝わる『ウルヴァリン:SAMURAI』
“『X-メン』シリーズのウルヴァリン、日本を行く“といった趣の『ウルヴァリン:SAMURAI』に登場するのは現代の日本。かつて自分が救った瀕死の大富豪・矢志田に招かれてやって来た日本で、骨肉の争いに端を発する陰謀に巻き込まれるという展開だ。新宿駅や秋葉原のパチンコ店、黒川紀章建築の中銀カプセルタワーをラブホテルとして登場させたり、東京の猥雑な一面の抽出はかなり巧い。ウルヴァリンは富豪の孫娘と長崎に逃避行するが、広島県の鞆の浦(とものうら)でロケされたこのくだりはちょっと小津映画っぽいしっとり感もある。だが、そもそもがミュータントが主人公のSFアクション映画なので、ニンジャ登場はお約束だし、ほかにも重箱の隅をつつき出したら収拾がつかないくらいツッコむポイントは満載だ。だが、作り手側が日本大好きなことが伝わる愛情あふれる勘違い(わざとかも?)はエンターテインメントの域に到達している。
この作品で、ウルヴァリンと矢志田の馴れ初めに長崎への原爆投下を絡ませてきたのは驚いた。本作といい、フランスの女性監督が阿部寛と西島秀俊を迎えて阪神淡路対震災の被災者のその後を描く『メモリーズ・コーナー』といい、海外の監督は日本人にとってデリケートなテーマにも恐れなく踏み込んで来る。複雑な心情を抱かざるをえないが、こういう形でも光を当てることで、誤解から生まれた興味が事実の探求をうながすようになることを願いたい。(文:冨永由紀/映画ライター)
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