待ちに待った『ビフォア・ミッドナイト』がついに公開! イーサン・ホークの大ファンである筆者には最高のお年玉であります。イーサンの何が素敵かって、あの憂いを帯びた子犬のような目! 久々に堪能できるということで、もうたまらない! それはさておき、この作品は、『恋人までの距離(原題:Before Sunrise)』(95年)から続く“Beforeシリーズ”第3章。イーサンといえば、実は子役から大成した貴重な俳優さん。そんな彼のキャリアと共に、3部作を振り返ってみたい。
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イーサンは14歳のとき、故リバー・フェニックスと共演した『エクスプローラーズ』(85年)で映画デビューしたが、これがずば抜けてかわいい! 早くもイケメンぶりを発揮してアイドル映画に出た後、『いまを生きる』(89年)の繊細な少年役で注目を集め、飛行機墜落で雪山に遭難した若者たちの実話を映画化した『生きてこそ』(93年)で主役を演じてスターの仲間入りを果たす。この頃は向かうところ敵なしで、ベン・スティラーが初監督した青春映画『リアリティ・バイツ』(94年)にウィノナ・ライダーと共に主演し、いわゆる“大ブレイク”。ブラッド・ピット、ジョニー・デップらと共に人気沸騰で3人ともハリウッド大スター路線まっしぐらか、と思われたが、イーサンは別路線を歩み始める。彼の関心は、ハリウッド大作ではなく小規模で実験的な作品にあったのだ。
そんな彼が選んだのは、新鋭リチャード・リンクレイター監督による小品『恋人までの距離』だった。共演は、フランス映画界で巨匠に愛されてきた若手女優ジュリー・デルピー。この作品は、列車のなかで出会ったアメリカ人の青年ジェシー(イーサン・ホーク)とパリジェンヌのセリーヌ(ジュリー・デルピー)がウィーンで一夜を過ごして半年後の再会を約束して別れる、という物語で、2人の会話だけで進むという斬新なスタイルが高評価を得た。若く美しいイーサンとジュリーがカフェで“指電話”で愛を語り合ったりする(観ているほうが赤面)、というロマンティックなムードもあって大ヒット。そして、多くの人々は見終わった後に語り合ったものだった、「2人は半年後に再会したのか?」「2人はエッチしたのか?」と……。
その後、イーサンは俳優業を休んで、処女小説『ホッテスト・ステイト』を執筆。休業明けは、感動的なSF青春物語『ガタカ』(97年)で宇宙への夢を追い続ける若者をクールな姿で演じ、共演したユマ・サーマンと後に結婚。多くの作品に主演する傍ら、『チェルシー・ホテル』(01年)では初監督もつとめ、『トレーニング デイ』(01年)ではアカデミー賞助演男優賞にノミネート。公私ともに順風満帆なはずだったが、2児をもうけたユマ・サーマンと離婚した2004年頃から傍目には低迷しはじめる。その一因は、離婚の原因がイーサンのモデルとの浮気であり、さらにナニー(子守り)の女性が妊娠して後に再婚したため、“浮気男”のレッテルを貼られたからだ。
そんな時期に公開されたのが、“Beforeシリーズ”第2章『ビフォア・サンセット』(04年)だ。あれから9年後に、9年後の2人を描いた作品で、作家になったジェシーが新作のプロモーションで訪れたパリでセリーヌと再会する、という物語だ。ジェシーは実生活さながら結婚生活の悩みを打ち明け、フライトまでのわずかな時間、街を歩きながら語り合う。セリーヌのアパルトマンの前で、照れてか耳まで真っ赤に染めるイーサンの演技は素晴らしかった! そして、部屋に入り、セリーヌが歌って、終わる。ああ、またも観客は「ジェシーは帰りの飛行機に乗ったのか?」「それともエッチしたのか?」と悶々とすることに……。
30代半ばになったイーサンは、自身の処女小説を映画化した『痛いほど君が好きなのに』(06年)で再びメガホンをとったり、『その土曜日、7時58分』(07年)などの良作に出演。若い頃から舞台も精力的にこなしていて、昨年はブロードウェイで「マクベス」に主演した。元ナニーとの間にも2人の子が産まれ、4人の子のパパとして精力的に働いている。また、これまで拒んでいたホラーに初挑戦した『フッテージ』(12年)がヒットを放ち、続編も決定。そして、『ビフォア・ミッドナイト』(13年)で再び脚光を浴びたのだ。
『ビフォア・サンセット』から9年、“9年後”の2人を描いた新作では、ジェシーとセリーヌは結婚して双子をもうけており、旅先のギリシャで久々に2人だけの夜を過ごすが、激しい夫婦喧嘩を始めてしまう……。2作目以降はイーサンとジュリーも脚本に参加しているだけあった、会話がリアルで面白く、本当にこの2人は夫婦なんじゃないかと思わせる(第86回アカデミー賞では3人で脚色賞にノミネートも!)。しかも、カメラを長回ししている証なのか、イーサンのシャツが片方だけパンツから出ている、というリラックスしすぎたスタイルもまた絶妙だ。たしかに老けたけれど十分に魅力的なイーサンとジュリー。リンクレイター監督も含めて、3人は本当に良き仕事仲間なんだなあ、ということを感じる作品だ。
一応、“最終章”ということで、今までの疑問「あのときエッチしたのか?」の答えが明かされているが、今回のラストもまた次につながる可能性を残している。ファンとしては、この先も3人とも健康でキャリアを重ねながら、いつか老いたジェシーとセリーヌのその後を見せてくれたらいいなあ、と願う。(文:秋山恵子/ライター)
『ビフォア・ミッドナイト』は1月18日よりBunkamuraル・シネマほかにて全国順次公開される
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