『ウルフ・オブ・ウォールストリート』
狂騒の3時間。金と欲、それだけ。本当にそれだけで、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』は80年代から90年代にウォール街を席巻した実在の株式ブローカーの栄枯盛衰を描き切る。全編を際どいユーモアで覆い尽くし、バブル時代のから騒ぎをエネルギッシュかつ明晰な演出で蘇らせた。マーティン・スコセッシ監督とレオナルド・ディカプリオの5度目の顔合わせとなる本作は、3月発表になるアカデミー賞で主要5部門にノミネートされている。
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ディカプリオは違法行為も恐れずにマネーゲームに挑み続けたモラルなきアンチ・ヒーローを大熱演。その男、ジョーダン・ベルフォードは手近な仲間を巻き込んで証券会社を設立すると、巧みなセールストークで欲の皮が突っ張った富裕層を標的に巨額の取り引きを繰り返し、26歳で年収4,900万ドルを稼ぎ出す。
どう扱ったらいいのかわからないほどの大金の使い道は、もう古典的としか言いようのない王道──セックスとドラッグ。そしてロックンロールの代替物は証券詐欺とマネーロンダリングだ。いささかの迷いもない。『ウォール街』(87年)でマイケル・ダグラスが演じたゴードン・ゲッコーは「欲は善だ(Greed is Good)」と自らにも言い聞かせるような念押しをする分、まだ良心的だったのかも、と思える。
一代で財を築いた若き成功者というと、ディカプリオ直近の主演作『華麗なるギャツビー』に重なるが、ギャツビーのようにシンパシーを誘う瞬間は皆無だ。ジョーダンの出自がちらりと語られる瞬間もある。ディカプリオのこれまでの出演作だと、そこから一気に主人公のコンプレックスや“心の闇”といった内面の苦悩が描かれてきたが、本作はそんな情状酌量の余地は一切なし。金の威力を知った学歴もコネもない若者が、身の丈にあった低俗な夢を実現させ、破滅していく。同じ監督・主演の『アビエイター』(04年)の大富豪とはえらい違い。反省なし、裁きもなし。悪びれず、ありのままだ。
ディカプリオは今年40歳になるが、20代を演じても全然無理はない。立身出世を夢見るナイーブな若者が、どんどん破廉恥な人でなしになっていく様子をタブーなしの表現で見せつける。主人公のモノローグで語らせる手法はスコセッシの傑作『グッドフェローズ』(90年)を思わせるが、同作でアカデミー助演男優賞に輝いたジョー・ペシと似た役回りを担うのは『マネーボール』のジョナ・ヒルだ。アパートの隣人からビジネス・パートナーとなったドニー・アゾフを演じる。常軌を逸した公私を共にするドニーもかなりアクロバティックなキャラクターだ。ジョーダンを糟糠(そうこう)の妻から略奪した2番目の妻を演じる新星マーゴット・ロビーの美しきビッチぶりも必見。
そして何と言っても、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのマシュー・マコノヒーだ。ウブだったジョーダンに、ウォール街を生き抜く極意を授ける最初の上司を演じる。南部訛りの金融街のハスラーは、スーツ姿の悪魔のように現れて姿を消すが、その影響は亡霊のように、通奏低音となってずっと留まり続ける。
もう1つ、映画を見る前に本物のジョーダン・ベルフォードの姿形をチェックすることをおすすめする。知っていると、何か面白いことがあるかもしれない。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』は1月31日より新宿ピカデリーほかにて全国公開となる。
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