【週末シネマ】失ってから知る「若さ」の真価。17歳の沸騰寸前の感情を描き出す
『17歳』
若くして才能が開花した監督の作品を見続けてきて、この人も歳を取るんだな、と思うときがくる。昨年、ソフィア・コッポラ監督の『ブリングリング』を見たとき、フランソワ・オゾン監督の『危険なプロット』を見たときにそれを感じた。かつて、若さというものに寄り添いながら映画を作ってきた彼らの視点が、いつの間にか大人のそれになっていた。
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オゾンの最新作『17歳』の主人公は、タイトルを体現するイザベル。原題通りの、若くてきれい(Jeune & Jolie)な少女だ。パリに実在する名門リセに通う設定で、女医の母親とその再婚相手、弟と暮らす。彼女が17歳の誕生日を迎える夏から1年間、四季の移り変わりと共に、大人でも子どもでもない時間をもてあまし、揺れる日々を描いていく。
その中心に据えたのは性だ。秋になり、パリに戻ったヒロインはSNSを使って不特定多数の男たちとホテルで逢瀬を重ねるようになる。もちろん金銭のやりとりも介在する。彼女はなぜ、そんな行動をとるのか。金目当てではない。快楽を求めているわけでもない。それでも放課後になると、ダボッとしたジーンズの通学スタイルからミニスカートにハイヒールを履き、赤い口紅をひいた彼女は身元を偽り、男たちと時間を過ごす。そのなかの1人、父よりも年上の紳士・ジョルジュとは特に親しくなるが、ある日、彼が行為中に心臓発作を起こして急死してしまう。動転した彼女は冷たくなった彼を置き去りに逃げ去る。冬になり、警察はジョルジュが死の直前まで一緒にいた相手がイザベルだと割り出し、17歳の少女のしていたことが家族の知るところとなる。
外見はほとんど大人だが、その世界は家庭と学校という狭い範囲。そこからはみ出していくイザベルの心と体のアンバランスな状態、涼しげな顔の下で沸騰寸前の感情がうごめくのが見えるようだ。演じるマリーヌ・ヴァクトは23歳。気品のある顔立ちとスリムな肉体で、17歳のあやうさを表現する。娘を理解しようとしながら、激しくぶつかり合う母親をジェラルディン・ペラス、ジョルジュの妻・アリスをシャーロット・ランプリングが演じる。
「きれい(jolie)」と「美しい(belle)」には違いがある。だから、年輩の女がイザベルをしげしげと見つめたあげく、「あなたとても美しいのね。美しすぎる」と言うシーンはグサリとくる。若さという、永遠ではない特別な美。その真の価値は失ってからでしか、結局は理解できない。女性に対する愛情の裏返し的手厳しさがオゾン作品の特徴だが、今回その対象は性を超えて、若さというものになった気がする。
劇中、夏休みにイザベルが家族で滞在する海辺のリゾート地で外国人を相手に初体験するくだりはモーリス・ピアラ監督の『愛の記念に』(83年)をふと思い出したが、オゾン自身がフランスのメディアのインタビューで、少年時代に自分にとって特別だった作品として同作をソフィー・マルソー主演の『ラ・ブーム』(80年)と共に挙げている。ちなみにイザベルが通うリセ、アンリ・キャトルは『ラ・ブーム』にも登場する。イザベルの年頃だった自分に影響を与えた2作へのオマージュに感じ入った。(文:冨永由紀/映画ライター)
『17歳』は2月15日より新宿ピカデリーほかにて全国公開中。
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