竹野内豊
この人にしかできない役がある。竹野内豊は、いつのまにかそんな俳優になっていた。最新作『ニシノユキヒコの恋と冒険』を見れば、誰もがそう思うにちがいない。
・竹野内豊、おみくじに“待ち人現る”で「待ち人探しの冒険したい」
ハンサムで仕事も有能、女性にはひたすら優しい。といっても彼女たちの言いなりというわけでもないし、聖人君子ではない生身の男らしい欲望も持っている。これぞ理想、という女性も少なくないはず。ではその“理想の男性”が実在したらどうなるのか。井口奈己監督の『ニシノユキヒコの恋と冒険』はそんな“もしも”の状況を、竹野内が演じるユキヒコが真実の愛を求める姿を通してリアルに描いたともとれる。
彼と接するどんな女性も自分は特別な存在のような気分に一瞬はなれる。こうしてほしい、ではなく、こうしてくれるのか! という優しさを味わうことができるからだ。白馬にまたがりはしないけれど、リアルな世界に生きる“王子様”だ。だが、彼は誰にでも合わせることはできるけれど、誰もが彼に合うわけではない。それに気づくのはユキヒコ本人ではなく、つき合う女性たちだ。
しっかり者の上司、マンションの隣室に暮らす若い女性2人、別れた後も友人関係を保つ元恋人、10年前に恋に落ちた人妻とその娘で10代に成長した少女、料理教室で知り合う主婦。尾野真千子に成海璃子、木村文乃、本田翼、麻生久美子、阿川佐和子、と個性的な共演者と息を合わせ、竹野内は誰にも等しく優しく、それが仇となってフラれ続けるユキヒコを好演している。
もちろん、完ぺきな美貌も大切なのだが、ユキヒコというキャラクターに最も不可欠なのは天使のような軽さだ。考え過ぎる女たちの重さに絡めとられることもなくふわりと浮かんでいく。この軽やかさを竹野内ほどツボを外さずに表現できる俳優をほかに思いつかない。ユキヒコの優しさにふれると、女性たちは文字通りメロメロだ。その無防備な様子を幸せそうに見つめる表情がまたいい。
イケメンなどという呼称は失礼にあたるくらい、非の打ち所のない外見で、竹野内は20代からテレビドラマ中心に硬軟とりまぜて幅広い役柄に挑戦していた。そして脇に回ることも躊躇せずに演じるようになった30代後半から、彼は徐々にいっそう興味深い存在になった。
その変化はおそらく2008年に『あの空をおぼえてる』で久々に映画に主演した頃から始まったように思える。特に映画については話題性ではなく、テーマや脚本を重視して出演作を選んでいるのがわかる。特に今回のような映画らしい映画がよく似合うのだ。
そして缶コーヒーや東京ガスのCMでも見せるコメディのセンス。これは『謝罪の王様』(13年)や『大木家のたのしい旅行 新婚地獄篇』(11年)などで存分に活かされている。特に、新婚旅行でなぜか地獄めぐりをすることになった若夫婦を水川あさみと演じた後者では、『ニシノユキヒコ〜』に勝るとも劣らない竹野内の名演が堪能できる。シュールな世界に引きずりこまれ、ツッコミを入れつつそれを楽しみ、優しさを無意識のうちにふりまく主人公はユキヒコにどこか通じるものがある。ブレイク前の橋本愛と鈴木福が演じる姉弟の交流など微笑ましいシーンもたくさんあり、未見の方にはぜひチェックしていただきたい。
その一方で、『太平洋の奇跡 フォックスと呼ばれた男』(11年)やテレビドラマ『オリンピックの身代金』(13年)のような史実に絡めた重厚な作品では昭和の男の厳しさも折り目正しく演じる。誰に対しても分け隔てなく接する心と、責任感の強い誠実さ。演じてきた役柄の性根は同時に竹野内自身のありようにも重なって見える。シリアスとコメディをバランスよくこなして順調なキャリアを築いているが、まだまだ隠された可能性はあるはず。思いも寄らないような作品や役に挑戦してくれるのを楽しみに待ちたい。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ニシノユキヒコの恋と冒険』は現在公開中。
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