【週末シネマ】悪気なく、思慮もなく、付和雷同で生きることが招く恐ろしい結果とは?

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『白ゆき姫殺人事件』
(C) 2014「白ゆき姫殺人事件」製作委員会 (C) 湊かなえ/集英社
『白ゆき姫殺人事件』
(C) 2014「白ゆき姫殺人事件」製作委員会 (C) 湊かなえ/集英社

『白ゆき姫殺人事件』

『告白』をはじめ、ベストセラーを連発する湊かなえの小説を『ゴールデンスランバー』などの中村義洋監督が映画化した『白ゆき姫殺人事件』。美人OLの惨殺事件が起き、ツイッター上の1人のつぶやきから“犯人”をめぐるうわさが暴走していく。

『白ゆき姫殺人事件』で美人OLを演じた菜々緒のインタビュー

被害者は化粧品会社に勤める20代の三木典子。社内一の美女で、後輩の面倒見もよく、誰からも好かれていた。犯人と疑われたのは典子と同期入社で、これといって特徴のない地味な城野美姫。同じ職場で2人を見ていた後輩OL・里沙子が、知人でテレビ局のワイドショーのディレクター・赤星に電話したことからすべてが動き出す。

事件後に忽然と姿を消した美姫には典子を怨む理由があった、と里沙子は言う。うだつが上がらず、ツイッターのつぶやきが憂さ晴らしだった赤星は「俺にもチャンスが向いてきた!」と浮き足立ち、里沙子やほかの同僚、美姫の家族や故郷の同級生などに取材を進めていく。その過程ももちろんツイッターで同時中継だ。こうして当事者でもない野次馬も巻き込んで、メディアをあげての犯人探しが始まる。

証言とは名ばかりの先入観と憶測に満ちた関係者の話は、積み重ねれば重ねるほど、真実は藪の中。非の打ちどころのなかったはずの故人の黒い部分も見えてくる。それにしても登場する女性たちの立ち居振る舞いのリアルなこと。女同士の笑顔のやりとりの下の駆け引きや争いは凄まじく、距離を置こうとする者を許さず渦中に引きずり込む様子など、とにかく真に迫っていて恐ろしい。

ネット上で犯人として本名や経歴まで特定されてしまう美姫を演じるのは井上真央。気丈な役のイメージが強いが、万事控えめで目立たない女性になりきり、さすがの演技派だ。容姿端麗な典子役の菜々緒も、証言の内容次第で如何様にも変化する女性像を見事に演じている。証言者として登場する女性たちも興味深い。湊作品の多くは女性の心の奥深い闇に迫るサスペンスだが、本作にはその抱える闇に気づいていないのか、元々ないのかというようなタイプもいて、紋切り型で片づけられず、なかなか手ごわい。

女性たちに振り回され、何の検証もせずに情報をたれ流す赤星を綾野剛が演じる。恣意的な証言に踊らされるだけで彼自身は嘘をついてはいない。薄っぺらい彼の行動は、人の記憶は無意識の内にもねつ造されるという事実を突きつける。悪気なく、思慮もなく、付和雷同で生きていくことが招く恐ろしい結果を緻密な造りで、ブラックな笑いもまぶして描いたエンターテインメント作だ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『白ゆき姫殺人事件』は3月29日より全国公開される。

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