トム・クルーズは脇役でも全力投球! 怪演&名演で主役を支える映画7選
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脇に回ったときに光るトム・クルーズの確かな演技力
【名優たちの軌跡・海外編】パンデミック下での2年に及ぶ公開延期を経て、公開と同時に世界中を興奮の渦に巻き込み、大ヒットを続けている『トップガン マーヴェリック』。1986年の『トップガン』に続いて、主人公のピート・“マーヴェリック”・ミッチェルを演じるトム・クルーズの映画に対する情熱に圧倒される。
『ミッション:インポッシブル』シリーズをはじめ、命知らずとしか言いようのない危険なスタントを自ら演じ、年齢を感じさせない気力と体力が賞賛されるクルーズだが、アクロバティックなパフォーマンスに更なる説得力を与えているのが迫真の演技だ。
・トム・クルーズの真骨頂! 『トップガン』の世界を信じさせるエンターテインメント魂に感服
マーヴェリックも、『ミッション~』シリーズのイーサン・ハントも、これまで彼が演じてきたキャラクターはほぼ全て、特別なパワーなど持たない生身の人間だ。観客が彼らに親しみや共感を抱くのは、CGに頼らない実演のリアリズムを補強する、さりげなく緻密なクルーズの演技によるところが大きい。その才能は主演作だけではなく、脇に回って主役をアシストしている時に、より明らかになる。今回は、主演を他の俳優に譲った作品でのトム・クルーズの名演に注目したい。
勤勉さを買われた『タップス』、名優と共演『ハスラー2』『レインマン』
キャリア初期から、その兆しはあった。映画出演2作目の『タップス』(81年)で19歳のクルーズは、追いつめられ狂気にかられて悲劇を引き起こす陸軍幼年学校生を演じた。主演は『普通の人々』(80年)で若手俳優のトップに立っていたティモシー・ハットンで、本作で映画デビューしたショーン・ペンも共演している。同作のハロルド・ベッカー監督とプロデューサーのスタンリー・R・ジャフェは、演じるだけではなく撮影現場で映画作りの全てを吸収しようとするクルーズの意欲を買い、当初より大きな役を与えた。
その後に数々の青春映画に出演し、『トップガン』で幅広い層から支持されるスターになったクルーズだが、その直後のキャリアムーブが独特だ。人気の波に乗って立て続けに主演するのではなく、助演のポジションに回ったのだ。それも、ポール・ニューマンやダスティン・ホフマンという名優の主演作だ。
マーティン・スコセッシ監督が、ニューマンの代表作『ハスラー』の続編である『ハスラー2』(86年)で、主人公エディに対抗意識むき出しの若いハスラー、ヴィンセントにクルーズを起用した。自信満々で生意気で血気盛んなヴィンセントと老練なエディの好対照、やがて師弟感情が芽生える変遷など、青年の成長を的確に演じた。
ダスティン・ホフマンが演じるサヴァン症候群の主人公レイモンドと歳の離れた弟チャーリーのロードムーヴィー『レインマン』(88年)では、遺産目当てに施設から兄を連れ出すチャーリーを演じた。ビジネスの失敗で切羽詰まったチャーリーは無礼で不機嫌に喚き散らしてばかりいる。愛すべきレイモンドを演じたホフマンの演技に目が行きがちだが、物語を動かすのは意思疎通のままならない兄とのやりとりで感情を露わにし続けるチャーリーの反応だ。かつて名優マイケル・ケインはクルーズの演技について「トムは、観客をレイモンドの視点に引き込むための大いなる鍛錬と責任が必要とされた」と高レベルの表現を絶賛した。
この2作で、クルーズは一流の名優、スターに不可欠なものとは何なのかを最短距離から学んだはずだ。そのお礼というわけではないが、偉大な先輩2人のアカデミー主演男優賞受賞をアシストしている。そして『レインマン』の翌年には『7月4日に生まれて』(89年)に主演し、初めてアカデミー賞候補にもなった。
『マグノリア』でアカデミー賞助演男優賞にノミネート
20代後半からの10年間はほぼ主演のみが続き、3度目のオスカー・ノミネーションを受けたのが、助演として参加した『マグノリア』(99年)だ。
彼が演じたのは、ピックアップ・アーティストのフランク。「誘惑してねじ伏せろ!」というミソジニー丸出しのキャッチフレーズでモテない男性相手のセミナーで世間を騒がせるキャラクターを熱演し、それまでの好青年イメージを覆した。ここでは虚勢を張る者が見せる強気の脆さを、疎遠だった父親との関係を通して見せる。フランクの表情や振舞いから、愛と憎しみとはこれほどにも近い感情なのかと唸らされる。
誰だかわからない!? 『オースティン・パワーズ ゴールドメンバー』『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』
カメオ出演で登場シーンも限られるゆえ詳細は伏せるが、『オースティン・パワーズ ゴールドメンバー』(02年)でも、抜かりない役作りで観客を喜ばせた。
長年の友人、ベン・スティラーの監督・主演作『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』(08年)では、絵に描いたようなパワハラ三昧の映画プロデューサー、レス・グロスマンを演じた。どんな大スターであろうが、見下して屈従させる。そういう人物と実際に接してきたのだろうな、と思わせる迫真の演技だ。最初に送られた脚本にはなかったスタジオ側の登場人物を加えるように勧め、新しい脚本を読んで、グロスマンを演じたいと申し出たという。さらに彼は「太った手にしたい。それに踊りたい」とリクエスト。スティラーが心配するほど作り込んだ風体は、何も知らずに見たら、すぐにはトム・クルーズと気づかないレベルだ。
傲慢で無慈悲な男のモデルは、パラマウント・ピクチャーズを傘下に収めていたメディア王、サムナー・レッドストーンと言われている。レッドストーンは2006年、クルーズのトーク番組などでの奇行を理由に、14年続いたパラマウントとクルーズの契約を打ち切った経緯がある。その意趣返しとも取れる勢いで、下品で非道なプロデューサー像を怪演した。
“ロックの神”を演じた『ロック・オブ・エイジズ』
人気ロックミュージカルの映画化『ロック・オブ・エイジズ』(12年)では、ミュージカル映画出演という念願を叶えた。ミュージシャンや女優になる夢を抱えた主人公2人に対して、クルーズが演じたのは絶大な人気を誇るロックバンドのヴォーカル、ステイシー・ジャックス。80年代ロックスターの記号の数々を散りばめたキャラクターで、“セックス、ドラッグ、ロックンロール”を体現する。意味不明の言動やスターのわがままを誇張と風刺を込めた演技で笑わせ、肝心の歌唱も見事。1日5時間のレッスンで鍛えた声で、ボン・ジョヴィやガンズ&ローゼズのヒット曲を歌いこなし、ライブ・シーンでのステージングも完ぺきだ。
『ロック・オブ・エイジズ』が公開された2012年に50歳となったクルーズは、以降の10年間は桁外れのアクションを自らこなす主演に専心してきた。年齢から逆算して、身体が動くうちに、という考えがあったのかもしれない。だが、衰え知らずの彼は今後も『ミッション:インポッシブル』の新作2本が続く。この先、60代になったクルーズが前人未到の道をどう開拓していくのか、もはや想像もつかない。
今回紹介した作品の多くは配信サービスなどで視聴可能だ。トム・クルーズの多才を改めて楽しんでもらいたい。(文:冨永由紀/映画ライター)
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